梅雨の時期のおにぎりは、ラップでくるんで握ったほうが良さそうだ(※写真はイメージ)
梅雨の時期のおにぎりは、ラップでくるんで握ったほうが良さそうだ(※写真はイメージ)

 高温多湿の状態が続く梅雨の季節は、食中毒に注意が必要だ。食中毒予防の重要な柱のひとつとして「食品の十分な加熱」は、よく知られている。しかし、十分な加熱でも防ぎきれない食中毒があるという。どのようなケースなのか、東京都健康安全研究センターの食中毒に関する情報担当者に取材した。

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「通常の食中毒を引き起こす細菌やウイルスは、食品の中心部まで十分に加熱すれば死滅させることが可能であり、手洗いとともに食中毒予防の根幹となっていることを大前提としてください」

 食品を十分に加熱しても食中毒の恐れがあるのはどんなとき?との問いに対して、東京都健康安全研究センター食品医薬品情報担当課長の小川正氏(薬剤師)は即座にこう答え、「例外」として次のようなケースを挙げた。

「ウェルシュ菌という土や水の中、人や動物の腸内にすみついている菌があり、熱に強い芽胞(がほう)という“殻”をつくるのが特徴です。ウェルシュ菌はとくに、カレーやシチューなどの煮込み料理での食中毒事例が目立ちます」(小川氏)

 大人数分をまとめてつくる大鍋のカレーなどでは、つくり置くと鍋の中心の温度が下がりにくく、そこにウェルシュ菌が増えやすい。ウェルシュ菌は、いったん芽胞をつくると加熱しても生き残りやすく、しかも食品の温度が50~55度に下がると芽胞から発芽して急速に増殖するという。

「調理済みのカレーなどを再加熱するときは、ただ加熱しただけでは内部まで熱が届きにくいことがあります。75度・1分以上を目安に、鍋底までよくかき混ぜながら加熱してください。梅雨の季節は、調理後、速やかに食べきっていただくことが望ましいのですが、保存するときは浅めの容器に小分けにして素早く冷まし、10度以下で保存することを目安にしてください」(小川氏)

 もう一つ、加熱しても注意が必要な細菌として小川氏が挙げるのは黄色ブドウ球菌である。エンテロトキシンという毒素をつくることが知られ、いったんこの毒素ができてしまうと、通常の殺菌の目安を上回る100度で30分間加熱しても無毒化させるのは難しいとされている。黄色ブドウ球菌は手のひらや鼻の中など、ごく身近にいる細菌であり、傷口やニキビなどには特に多く存在するとされている。

 このため、素手、とくに傷があったり、肌荒れがあったりする手でおにぎりを握ると細菌が付着しやすいことが知られている。おにぎりを安全につくり、食べるためのポイントを小川氏は次のように指摘する。

「素手でおにぎりをつくり、十分に冷まさずに持ち運ぶと、細菌を“つける”だけでなく、“増やす”ことになりいっそう危険です。おにぎりはラップでくるんでつくって細菌を“つけない”ようにして、十分に冷ましてから、保冷剤なども使って持ち運んで“増やさない”ようにするのがよいでしょう」

(文・近藤昭彦)