それから、猪瀬さんは屈折がないんですね。

田原:どういうことですか。

蜷川:すごく素直な方なんです。作家の方ってコンプレックスが強かったり、屈折している人が多いんですけど。

田原:こう言っては何だが、猪瀬さんもいろんなことがあったのに、なんで屈折していないのだろう。

猪瀬:屈折していないというのは、好奇心があって、気になることは周囲がどう思うかを気にせず聞くし、自分の考えはきちんと言うということです。それは田原さんもそうでしょう。

田原:そうかもしれない。ところが今の日本の社会は思ったことを言うのがあんまり得意じゃない。

蜷川:思ったことを言うとは、戦うことを恐れない強さだとも思います。叔父の蜷川幸雄もそうですが、昔はそういう方が多くいらっしゃいました。

田原:猪瀬さんは『ミカドの肖像』や『日本国の研究』で日本のタブー、暗部に堂々と切り込んできた。蜷川さんはそこに惚れたんだね。ところで、今年の6月には王貞治さんも78歳で結婚を発表した。「若者の恋愛離れ」「低欲望社会」と言われる中で、シニアが元気に恋愛するのはいいことだ。しかし、年を取って結婚に踏み切るのは覚悟がいる。その中で猪瀬さんは結婚を選択した。

猪瀬:僕はよく言うのですが、僕は前の奥さんと「恋する日常」を送りました。

田原:どういうことですか。

猪瀬:結婚というのは恋愛を「日常」にすることなのだと思います。亡くなった僕の妻は一緒にいるだけで家屋の空間を満たしてくれる存在でした。僕は、空間ごと妻を愛していた。それが「恋する日常」であり、もう一度そういう日常を送りたいと思ったのです。

蜷川:ある日、猪瀬さんがわたしに「恋する日常をしましょう」とおっしゃいました。恋はふつう非日常的なものですよね。それを日常化するという逆説的表現が斬新でした。

田原:日常を大切にすると言っても、それがなかなか難しい。僕は2回結婚しているが、女房と僕で意見が食い違ったときは僕が女房に合わせた。論争しても勝てないから(笑)。

猪瀬:田原さんは現在どのような恋愛をされているんですか。最近、高校時代の同級生で、“当時のマドンナ”と付き合っていると噂で聞いています。

次のページ