開業当時は介護保険もなく、一般の人は「在宅? なにそれ?」という時代。でも、その頃から24時間の往診も訪問看護もやっていたし、まさに今の在宅療養支援診療所そのもの。ただ最初の頃は、話題騒然・人気全然で借金ばかり増えていったな。いろいろな人に出会って、助けてもらったり騙されそうになったり。そのうち、少しずつ患者も増えていった。

 そんな時代から20年以上も在宅医療をやっていれば、何百人もの人間の最期を看取ることになる。死亡診断書は今までに700か800くらい書いたかな。病気はもちろん、事故死もあるし老衰もある。静かな死もあれば壮絶な死もあり、大勢の家族に囲まれて死ぬ人もいれば、独居で一人、死んでいく人もいる。天涯孤独のヤクザを看取ったこともあるよ。

 でも、一人で死ぬのは別に孤独死じゃない。不幸でもない。それがその人の生き様であれば、いいじゃないか。どうやって死のうが、その人の勝手。そう思わない? 孤独死、孤独死って、マスコミの報道が良くないよね。

 僕自身、自分の人生なんだから、自分で稼いだ金を全部使い切って勝手に死んだって、誰にも迷惑かけなきゃいいじゃないか、なんて思うけどな。

 還暦を過ぎて院長は退いたけれど、診療は続けてます。在宅も外来も楽しい。とにかく女性が元気。ツルとかトメとかトラとか、カナ2文字の名前の患者ばっかり。バアさんたちと僕とのやり取りがおかしいって、看護師たちが笑いをこらえるのが大変なんだ。

■いつ、どういう死に方をするかなんて、誰にも分からない

 日本人男性の平均寿命は80歳くらい。だから僕は還暦を過ぎた時、あと20年生きられれば運がいい、その20年をどう生きようか、と考えた。

 人生を生きるうえで、体力とお金と時間のバランスは、とても大事。20歳の頃は時間と体力はあるけど金がない。30になると少し金はできて体力もあるけど、仕事に忙殺されて時間がない。40になると金はあるけど体力が衰えてきて、時間は相変わらずない。50になると体力がない。そして今60を過ぎ、これから70になり80になって死に向かう。そう考えれば、この10年くらいが最後のあがき。楽しく生きなければ。

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