【文豪の湯宿】井上靖が“しろばんば同窓会”を開いた宿

鈴木裕也週刊朝日
文豪も愛した日本最大級の露天の巨石風呂。長さ5.4m、幅3.8m、高さ1.5m、重さ53tの石をくりぬいて造られたという
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文豪も愛した日本最大級の露天の巨石風...

 文豪たちの作品に登場する温泉宿を訪ねる連載「文豪の湯宿」。今回は「井上靖」の「白壁荘」(静岡県・伊豆天城湯ケ島温泉)だ。

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 井上靖にとって湯ケ島は第二の故郷だ。秋の夕暮れ時にこの地で見られる雪虫を題名にした自伝的長編小説『しろばんば』には、両親のもとを離れ、湯ケ島の自然の中で成長していく少年の姿が生き生きと描かれる。

 戦後になると、湯ケ島に戻った両親を、人気作家として多忙な中、毎月のように訪ねた。その際に宿泊したのが、完成間もない白壁荘である。昭和48年に母親を失ってからも、8月初めの墓参りを毎年欠かさず、白壁荘の「あまんじゃくの間」に2泊した。井上家の墓までの運転手役は、現白壁荘当主の宇田治良さんだった。

「お墓参りから帰ると、宿で湯ケ島小学校時代の同級生や後輩と“しろばんば同窓会”を開くのが常でした。皆さんで楽しくお酒を飲んでお開きになった後も、井上先生は父(先代当主)と遅くまでブランデーを飲まれていましたね」(宇田さん)

 白壁荘には昭和63年完成の巨石風呂がある。この風呂の命名を託された大作家だが、平成元年に夫人を伴い2泊したのを最後に、体調を壊して入院。名付けの約束は果たせぬまま、平成3年に息を引き取った。今も巨石風呂は名無しのままだ。(文/本誌・鈴木裕也)

■白壁荘(しらかべそう)
静岡県伊豆市湯ケ島1594

週刊朝日 2018年6月29日号

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