国民健康保険については、これまで自治体が加入者から保険料を徴収し、それを給付費として医療機関などへの支払いに充てていた。だが、集めた保険料だけでは赤字となり、保険料と同じ額を国と地方の税金から投入。基本は全体の5割を保険料、5割を税金で補っている構成だ。

「それでも保険料が足りない場合は、市町村の税金を追加で投入しています。このため、財政状況が厳しくて税金を医療費に割くことができない自治体の保険料は、総じて高くなりやすいのです」(荻原さん)

 そもそも、国民健康保険の加入者は、農林水産業者や自営業者、非正規雇用者、無職の人がほとんどを占める。

 国民皆保険がスタートしたのは1961年。当初、加入者の多くは農林水産業者と自営業者で占めていたが、高度成長時代などを経て働き方が大きく変わり、2016年になるとその割合は2割を切るまでに減少。代わって非正規雇用者や無職の加入者が8割弱に増えた。現在は加入者の4割が65~74歳の高齢者だ。

 社会保障のしくみに詳しいニッセイ基礎研究所准主任研究員の三原岳さんは、「高齢化や雇用形態の多様化など、社会の変化のしわ寄せが国民健康保険に集中している」と指摘。この問題を解決すべく、大なたを振るって約50年ぶりに断行されたのが「国民健康保険制度改革」だ。

 これまで市町村が担当していた財政運営を、今年4月に都道府県に移管。市町村はこれまでどおり加入者から保険料を徴収したり、保険料を決定したりするが、新制度では、都道府県が納付金の金額を市町村に割り当てる。それを受けて、市町村が徴収した保険料を納付金として納め、都道府県が高齢化率などを考えて分配する。この改革で国は財政基盤を強化するため、毎年約3400億円の公費を投入する。

 この改革で保険料はどう変わるか。荻原さんは「所得が高い住民が多い地域の保険料は上がり、高齢者や所得の低い住民が多い地域の保険料は下がるのでは」と推測する。

 厚労省は今年3月、北海道と宮城県を除く45都府県1524市区町村の16年度(改革前)と18年度(改革後)の保険料を比較した結果を公表。その結果、全体の5割強にあたる828市区町村で保険料が下がり、4割強の656市区町村が上がった。保険料の下げ幅がもっとも大きかったのは、沖縄県粟国村で、マイナス51.9%。反対に上げ幅がもっとも大きかったのは、伊豆諸島の東京都御蔵島(みくらじま)村で、26.6%だった。

「自治体は保険料を都道府県に納付するだけでなく、地域住民の健康づくりの施策や医療サービスの充実など、本来の自治体としての役割を担うようになる。保険料の違いだけでなく、取り組みも含めて地域の比較がしやすくなるでしょう」(荻原さん)

(本誌・山内リカ)

週刊朝日 2018年6月29日号より抜粋