西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、新戦力として頭角を現してきた選手たちを紹介する。
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毎年のようにパ・リーグ上位が続いていた交流戦だが、今年は開幕直後から下位に沈んでいたヤクルトの奮闘もあって、セ・リーグが6試合すべて勝利した日があるなど、最後まで互角の勝負を演じた。
5月から6月にかけては戦力の見極め、監督の決断が進むと、以前このコラムで書いたが、阪神は金本監督が開幕から4番を務めたロサリオの2軍再調整を決めるなど動きがあったね。一方で、新戦力というか、開幕に1軍にいられなかった選手が起爆剤となるケースも出てくる。西武の昨年のドラフト1位、今井達也が13日のヤクルト戦で6回1失点(自責0)と好投してプロ初登板初勝利を挙げたことは、チームにとって新しい力、可能性を見いだした、と言っていい。
ラジオの解説でメットライフドームにいたが、想像以上だね。大いなる可能性を感じさせてくれる投球だった。目を見張ったのは体のしなやかさだ。フィニッシュの時に左ひざの位置まで右肩が来る。これは体に柔軟性がなかったら難しいことだ。さらに、柔軟性は牽制(けんせい)のうまさにも表れている。走者が2度、逆をつかれそうな場面があったが、これも下半身からターンして、肩が最後に動くから、走者はためらう。走者は牽制の際に左肩の動きを見ているもの。左肩が遅れて動けば、それだけ帰塁は遅れる。下半身主導の動きが牽制にもできていて、センスを感じた。
甲子園優勝投手で初登板初勝利を挙げるのは、西武では1999年の松坂大輔以来と聞く。当時、私は西武の監督として大輔を間近に見ていたが、彼の場合は、体の硬さがあるがゆえのパワーがあるという印象だった。今井の場合はしなやかさから来る球の力がある。セットポジションになっても大幅に球威が落ちることもなかった。
四回からはカーブも交えて、6回112球を投げたが、まだ線は細い。スタミナをどうつけるかが課題だろう。これから中6日で投げていくとして、試合の緊張感の中でしかできない筋肉をつけていってほしい。ウェートトレーニングが発達し、体を短期間で大きくすることができる時代だが、筋肉のつけ方、その効果と意味を理解しないと、ただ体が大きくなるだけで、今井の最大の特長であるしなやかさが失われてしまう。投手としての動き、投球動作の中でつく筋力というものもあるという意識も持って、しなやかな体作りをしてもらいたい。