それでも親父は、余命半年と宣告されてから二年半生きた。しかし、大センセイ、それを単純によかったとは思えないのだ。

 亡くなる直前の親父の腕は、点滴のやりすぎで表皮が破れリンパ液が漏れ出る状態だった。それでも主治医は、亡くなる当日、熱が高いからといって抗生剤の点滴を看護師に命じていた。そうしなければ、家族から訴えられるとでも思っていたのだろうか。

 誰もが「引導」を渡す役割を背負わないまま、都合七種にもおよぶ抗がん剤の投与を受けて、親父はボロボロになって死んでいった。

 臨終の後主治医は、

「二年半というのは、まあいい経過でした」

 と言った。

週刊朝日 2018年6月22日号

著者プロフィールを見る
山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

山田清機の記事一覧はこちら