想田和弘監督(撮影/小暮誠)
想田和弘監督(撮影/小暮誠)

 中止発表で驚かせ、それを翻しての米朝首脳会談──。「ディール(取引)・メーカー」トランプ大統領を読み解くカギは2016年の米大統領選にあった。同時期に撮影された観察映画が映す「現代米国の縮図」とは。想田和弘監督に聞いた。

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「選挙」「港町」などで知られる想田和弘監督(米国在住)の最新作「ザ・ビッグハウス」は、米国では野球のMLBメジャーリーグ)を上回る人気を誇るアメリカンフットボールの巨大スタジアムに、17台のカメラを持ち込んだもの。

 舞台は、アメリカ最大、11万人収容の名門ミシガン大学のスタジアム。チアリーダー、マーチングバンドの練習風景から食堂の厨房(ちゅうぼう)、救護室、路上のダフ屋、宗教勧誘者など「スタジアムに集まる人々」を追いかけていく。

「僕がこれまでやってきた“観察映画”の手法で映画をつくるというミシガン大学での授業がもとになっています。撮影は13人の学生と僕を含めた教官4人。合言葉は『試合以外のすべてを撮る』で、実は僕はいまだにアメフトのルールを理解していないんですよ」

 撮影、編集、総監督の想田さんが学生たちに指示したのはリサーチしない、観客の解釈の幅を狭めないなどの10のルール。

「中でも口をすっぱくして言ったのは、あらかじめゴールを決めず、よく観てよく聴き、行き当たりばったりでカメラを回すこと」

 結果、同じ場所を共有しながらも相矛盾するものを映し出していくことになる。俯瞰(ふかん)のカメラは大観衆が一体化する様子を、至近距離になるとバラバラな個人を。

「それがアメリカなんです。撮影する学生も僕の指示にあんまり従わないし、好き勝手に撮ってくる。でも、だからこそ僕には撮れないような独特の視点で撮ってきたりもする」

 厨房の食器洗い器の中に防水小型カメラを入れた映像など、想田監督が感激したものもある。

 チアリーダーやマーチングバンドは開会式直前の練習中に談笑したり、よそ見したり。いかにものびのびしたアメリカの若者だ。それが本番の行進となると打って変わって一体感を示す。

「あの一体感、ナチス・ドイツのオリンピックを撮ったレニ・リーフェンシュタールが思い浮かびました」

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