東日本を襲ったあの巨大な天災が、そこに影響を及ぼしているのは間違いない。新聞のテレビ欄を見れば、日本人が外国人に笑われることより、尊敬されることを欲するようになったのがよくわかる。隣国・中国の台頭も、声高に愛国を叫ぶ人が増えたことと無関係ではあるまい。

 震災があったのと同じ年には、なでしこジャパンがワールドカップで優勝し、日本中を熱狂させた。さらにその翌年のロンドン・オリンピックでは男女のサッカーがそろって準決勝まで駒を進め、サッカーファンの自信や期待はさらに膨らんだ。

 結果的に惨敗に終わったものの、14年のブラジル・ワールドカップに出場した際は、大黒柱の本田圭佑が目標として公然と優勝を掲げた。これにはさすがに「いくらなんでも」と批判する人も少なくなかったが、わたしは、彼の発言が「日本人だからできない」というところとは対極に位置するもののようで、実は大いにうれしく思っていた。

 わたしがスポーツの世界に飛び込んだころ、メジャーリーグで日本人が活躍するなんて、ましてそこでスターになるなんて、想像もできなかった。日本のテニス選手がグランドスラムの決勝に進むなんて、手足の長い欧米人を圧倒して勝つフィギュアのスターが現れるだなんて、100メートルを9秒台で走る選手が出現するなんて、夢にも思わなかった。

 日本人には、日本人であることを国際舞台で勝てないことの理由としていた時代が、確かにあった。そのことがたまらなく悔しかったわたしは、だから、「日本人だからできない」との前提に立ったチーム作りに激しく反発するようになった……ような気がする。いまとなっては。

 ご存じの通り、日本サッカー協会は大会直前にハリルホジッチ前監督を解任したが、このことにも、日本の変化が如実に表れている。

 フィールドで展開する戦術はさておき、彼はトルシエと非常によく似たタイプの監督だった。どちらもアフリカでの指導経験があり、どちらも強権的。選手との関係は非常に悪かった。

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