ゴールデンカムイの中に、刑務所で囚人が入れ墨をしていますが、あれはどうやっているんですか。

野田 灰と唾(つば)で入れているですが、アイヌもそうなんですか。

中川 漫画のなかでおばあちゃんが「入れ墨をする年頃なのになってもアシリパはしないのか」と言って、アシリパが「今では若い子はしていないんだ」と言うシーンがあります。舞台は日露戦争の後ですよね。昔、アイヌの女性は口の周りに入れ墨していましたが、1876年に法律で禁止されています。アシリパの世代では、とっくの昔に禁止されていたので、アシリパが入れ墨したら法律違反です。

大熊 アシリパの衣装についてはどうですか。

中川 最初に第1話でアシリパの衣装を見ると、山へ行く時の格好が全部そろっていた。その絵を見た時にこれはかっこいいと、そしてよくここまで調べて描いたなと思いました。山に行くときには、タシロという山刀やマキリという小刀、矢筒と弓、クワという山杖などを身に着けるのですが、一式そろって写った写真はないと思います。野田さんが組み合わせて描いていた。この絵を見た時に、これは絶対にいけると思い、監修を受けることに決めました。

 その時には気が付かなかったのですが、連載が始まってから、脚に履いているものについて「あれは何ですか」と聞かれたんです。調べてみると、女の人は狩りに行かないので、狩りの時に何を履いていたのかはそもそもわかりようがないが、男の人は何も履いていない。真冬の雪の中を狩りに行くときでも、何も履いていなかったということがわかりました。では、野田さんは、アシリパの脚に何を履かせているのか。

野田 もも引きみたいなものです。

中川 その答えは後で聞いたんですが、最初、絵を見てタイツみたいなものを履いているのだろうかと思い、タイツについて調べてみた。そうしたら、タイツは19世紀の中ごろにフランスで発明されていた。この漫画の始まりの舞台は小樽ですから、アシリパは輸入したタイツを一足先に履いていたのだと。そういう設定でいいのではないかとトークイベントで話したところ、北海道の小樽市総合博物館の石川直章館長に、「そうなんです。証拠写真を見せましょう」と言われて、当時、すでに小樽の女性はストッキングをはいていたことがわかったんです。

大熊 リアルがフィクションに追いついた瞬間ということですね。

中川 私と石川館長が内容を議論するくらい、この作品は非常にリアル。細部にわたるまでリアルな描写がされていて、議論できるような漫画です。

大熊 一番印象的な取材はなんですか。

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