家事を外部の人間に代行してもらうことに抵抗がある場合は、まずは「お試し」でやってみるとよいそうだ。

 介護が必要になる前に、子どもに話しておきたいこともある。

「『どんな介護を受けたいか』という場合、施設に入るか・入らないかとか、資産がどうかという内容になりがちですが、自分にとって大事なものは何か、どんな時間を過ごすのが好きか、といったことを子どもに知ってもらうことも大事です」(小谷さん)

 “これからの暮らし方”を具体的に形にしておくという意味で、小谷さんが勧めるのが、「任意後見制度」だ。成年後見制度の一つで、認知症などで判断能力が低下したときに裁判所の手続きによって行われる「法定後見制度」と違って、元気なときに将来に備えて利用するものだ。

 自分で選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活や介護、財産管理について代理権を与える契約(任意後見契約)を、公証人のつくる公正証書で結ぶ。かかる費用は1万数千円程度で、子どもでも代理人になれる。

「遠方の家族に対して、自分たちの日々の暮らしや価値観などを伝えるいい手段だと思います。任意後見制度がすべてではありませんが、自分たちがどう暮らしていきたいのかを、しっかり伝える。それは介護をする側の負担の軽減にもつながる。子どもたちへの“思いやり、メッセージ”です」(同)

 もう一つ。介護にかかる費用は親が持つのは、介護の鉄則。そのための一つの方法が、親の財産を子どもに託して身内で管理、処理するための仕組み、「家族信託」だ。福祉関係に詳しい弁護士の外岡潤さん(法律事務所おかげさま)はこう説明する。

「対象となるのは現金や不動産などの財産。子どもは委託された現金や不動産を管理し、その財産を親のために使います。後見制度と違い、家庭裁判所のお世話になることなく財産を自由に処分できる点がメリット。もちろん介護費用にも充てることができます」

 家族信託の主役は、子どもではなく、あくまでも親。有効な方法の一つだが、いま注目されている相続対策だけに、一度、家族が集まったときに話しておいてもいいだろう。(本誌・山内リカ)

週刊朝日 2018年6月15日号より抜粋