放心状態で次男が撮りためたデジカメを見ていると、草やら木やら鳥やら小川やら吊り橋やら……。なるほど、たまには自然に身を置くのも悪くない。また出掛けてみようかな……。

 出発前に二人で撮った写真。よく見ると次男の右ポケットから垂れ下がった物体が……。あれ? さっきの靴下? ということは、どういうわけかポケットに靴下を引っ掛けた次男が……そのままの状態で高尾山まで登り……下山途中でとうとう落下……それに気づかず次男が拾い自分のものだと主張した……ということか。靴下……心細かったろうなぁ。ごめんよ、靴下。

 次男がこの日書いた日記は「お父さんと高尾山に登りました。途中、山の中で僕の靴下を拾いました。とても楽しかったです」。横に先生の感想が赤ペンで、「『僕は靴下を』の間違いですね。山でゴミを拾うのは素晴らしいです。自然を大切に!」と添えられてましたとさ。

週刊朝日 2018年6月15日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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