表彰式で喜ぶA東京の選手たち(撮影/写真部・馬場岳人)
表彰式で喜ぶA東京の選手たち(撮影/写真部・馬場岳人)
井上雄彦(いのうえ・たけひこ)/漫画家。高校バスケットが舞台の『スラムダンク』はバスケブームを巻き起こした。6月から新たにカバーイラストを描き下ろした『スラムダンク』新装再編版(集英社)が順次発売。一昨年から朝日新聞で選手との対談企画「B.LEAGUE 主役に迫る」を連載中(撮影/週刊朝日編集部・秦正理)
井上雄彦(いのうえ・たけひこ)/漫画家。高校バスケットが舞台の『スラムダンク』はバスケブームを巻き起こした。6月から新たにカバーイラストを描き下ろした『スラムダンク』新装再編版(集英社)が順次発売。一昨年から朝日新聞で選手との対談企画「B.LEAGUE 主役に迫る」を連載中(撮影/週刊朝日編集部・秦正理)
CSのMVPに輝いたA東京の田中大貴選手(右)(撮影/写真部・馬場岳人)
CSのMVPに輝いたA東京の田中大貴選手(右)(撮影/写真部・馬場岳人)

 バスケットボール男子のBリーグ2017-18シーズンは、アルバルク東京の初優勝で幕を閉じた。「Bリーグは一段階上のステップに上がった」。リーグを見続けている漫画家の井上雄彦さん(51)が、「守備力」を生かしてファイナルでライバル・千葉ジェッツを下した王者の戦いぶりと、2年目のBリーグを振り返った。

【「スラムダンク」作者 井上雄彦さんの写真はこちら】

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 不思議な感覚でした。

 チャンピオンシップ(CS)のファイナルを見終わってから、ファイナルでの個人成績を振り返ろうと思わない自分がいました。それくらい、アルバルク東京(A東京)の、チームとしての出来が素晴らしかった。

 特に印象に残っているのが、守備です。バスケの守備は、コートでプレーしている5人のうち誰か一人でも手を抜いたら、そこから水が漏れ出すようにやられてしまう。A東京の選手たちは5人全員がつながり、同じ強度の網を張って守れていました。

 207センチの竹内譲次選手は得点こそ2点でしたが、体を張ってゴール下に立ちはだかり、ガードの安藤誓哉選手、小島元基選手は、千葉ジェッツのキーマンである富樫勇樹選手に仕事をさせませんでした。レギュラーシーズンの平均得点が84.5点の千葉を、わずか60点に抑え込みました。

 彼らの姿に、日本全国でバスケに打ち込んでいる少年少女が勇気づけられたのではないかと思います。

 守備の練習は地味で、きつい。身につけるには長い時間がかかります。米プロバスケットボール協会(NBA)のダンクシュートやアリウープなど派手なプレーを見て、「守備なんかしてないじゃないか」と思う子もいるでしょう。

 でも、A東京のプレーは確実に、子どもたちが取り組んでいる練習の延長線上にあるものでした。Bリーグの頂点に立ったチームがあれだけ激しい守備を見せてくれたことで、子どもたちの練習にも、いっそう力が入るはずです。

 A東京は選手層の厚さゆえ、リーグ発足時から優勝候補に挙げられていました。しかし、リーグ元年はファイナルにも届かなかった。ファイナルにたどり着き、ここで勝つということを、選手たちは毎日、自分に課してきたのだと思います。もちろん千葉も同じ気持ちだったでしょうが、その決意の濃さが勝敗を分けたのかもしれません。

 A東京のルカ・パビチェビッチ・ヘッドコーチは就任1季目での栄冠でした。あのスタイルのバスケは、チームの熟練度が上がれば上がるほど強くなる。もっと伸びしろがあると思います。コーチや選手の顔ぶれが大幅に変わらない限り、この2、3年で「王朝」を築くかもしれない、と思わせてくれました。

 千葉というチームは、ポイントガードの富樫選手がゴール下に切れ込んで見せるレイアップやフローター、外からの3点シュートを起爆剤にして、一気に乗っていける強さを持っています。ただ、ファイナルでは富樫選手自身が封じられたことに加え、たとえ富樫選手がゴール下まで切り込めても、味方がフリーにしてもらえず、パスを散らすことが難しかった。A東京の仕掛ける守備に対する答えを、チーム全体で持ち合わせていなかった印象を受けました。

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