高齢者がどんな生活をしたらいいか、ということについて顕著に変化が出るのは、食事だろう。若いころは、肥満、メタボリックシンドロームは健康を損なうリスクとして摂生を求められていたのに、高齢者になると逆に「低栄養による体重減少に注意しましょう」と大きく転換する。

 高齢者の低栄養はサルコペニアにつながり、筋力低下・身体機能低下を誘導し、活動度や消費エネルギーの減少、食欲低下をもたらす。それがさらに栄養不良状態を促進させるという悪循環に陥る。

 東京都健康長寿医療センター名誉院長で骨粗鬆症財団理事長の折茂肇医師は「低栄養にならないように、タンパク質、とくに肉を食べるのがいい」と話す。

 一昔前までは、「高齢者は食が細くなるので食べられるだけで十分である。肉はあまり食べないほうがいい」と言われていたが、サルコペニアなどの筋肉の研究の進歩により、高齢者は高タンパクの食事をとらなければ、筋肉が減る一方であるということがわかってきた。

「肉を食べられる高齢者は、健康で元気な人ともいえます。食べすぎはよくありませんが、食べたいと思うなら食べたい量だけ食べればいいのです。しかし、75歳を過ぎて急に、肉を食べようとしても食べられるものではありません。75歳になる前に、そういった食習慣をつけておくことが重要です。それは食事だけでなく、運動習慣や生きがいを見つけることなど、『准高齢者』が『高齢者』になる前に備えてやっておくべきことです」(折茂医師)

 75歳を区切りにするのはいいきっかけになるとして、折茂医師は続ける。

「高齢者のからだの機能は、すべて衰えています。個々の臓器の病気にこだわりすぎず、総合的に見て病気があったとしても元気で日常生活ができればいいという意識・考え方に変えていくのがいいでしょう」

 人生100年時代と呼ばれる時代。高齢者の健康や病気についての考え方が、大きな転換期を迎えつつある。(本誌・杉村健)