日本老年医学会は日本糖尿病学会と合同委員会を作り、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を発表し、75歳以上かどうか、身体機能や認知機能の低下があるかによって目標値を変えている。中高年の血糖コントロール目標は7.0%未満だが、75歳以上では、コントロール目標を少し緩くして、治療自体の合併症を防ぐということだ。

 ある年齢を境に病気の傾向が変わるかどうかを調査した研究結果をいくつか紹介しておこう。調査方法などで年齢の区切り方が異なるため、年齢については参考程度に見てほしい。

▼脂質異常症
 主に前期高齢者(65~74歳)で、高LDLコレステロール血症は心筋梗塞などの冠動脈疾患の危険因子になっているが、70歳以上の高齢者を対象とした研究では、LDLコレステロール値と冠動脈疾患の間に関連性を認めないとする報告が多い。

▼肥満
 中年期の肥満は認知症発症の危険因子となるが、65歳以上の高齢期の肥満はリスクとはならない。むしろ、やせや体重減少をきたした群で認知症になりやすい。

 高齢者では、心血管死亡リスクという点のみをみれば糖尿病や脂質異常症は治療の必要性が低く、認知症発症リスクという点のみをみれば肥満は改善する必要はないということになる。

 これらは、ある年齢を境に病気のリスクが変わることを示唆している。一方で、高齢者になってもリスクが変わらないとされるものは、心血管死亡リスクからみた高血圧、認知症発症リスクからみた糖尿病。この二つは、調査結果を見ると、年齢を重ねても傾向は変わらないようだ。ここで紹介した研究結果は、あるリスクに着目して示された結果のため、高齢者全体でみれば、さまざまなリスクを複合的にみていく必要がある。

 日本老年医学会は、こうした考え方に基づいて、高齢者の高血圧、糖尿病、脂質異常症のガイドラインは作成済みで、肥満についても作成中という。

「75歳以上の高齢者は、いくつもの疾患を抱えているケースが多く、そのすべてを治療することは不可能です。どの疾患を治療すべきか、優先度を決めていく必要があります。また、75歳未満と同じような治療をしても、認知機能や身体機能(フレイル)の状態によって、治療の効果が小さくなります。病気の有無や重症度よりも、心身の機能低下またはフレイルがあるか否かが治療方針の判断材料として大事になってくるのです」(荒木医師)

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