“リアリズム”を追求しようとすると、どうしても芝居は小さくなり、台詞は説明的になる。そうではなく、観客の頭の中に様々なことを想像させるのが、能楽の豊かさであると万作さんは力強く言う。だからこそ、より奥深い部分で、観客は舞台に参加できるのだ、と。

 そんな、万作さんにとって思い入れの深い一作の「楢山節考」が、“パフォーミングアーツとしての能・狂言”というコンセプトに基づき2004年から始まった「狂言劇場」で、「特別版」として上演される。

「能楽は、長年にわたって余計なものを削り落として、削り落として。最後のエキスだけを絞り込んだような、そんな表現になっています。頭で考えて演じるのではなく、(腹部をパンパンと叩いて)この肚で演じながら、そのエキスが滲み出す。演者のエネルギーと、観客の想像力のぶつかりあいこそが、人間と人間の対話に繋がると信じているのです。若い頃のようには華やかに動けなくても、老いには老いの華がある。繰り返し演じたことで会得できた解釈がある。私の演技も、余計なものが削ぎ落とされて、しみじみと深いものが滲み出ているといいのですが」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2018年6月8日号