政党のメッセージを伝え、有権者と対話するチャンネルとして有効に活用される一方で、ワッツアップがフェイクニュースやデマ拡散の温床になっているとの指摘もある。特に顕著なのが、宗教的対立をあおるフェイクニュースやデマだ。

「イスラム教徒がヒンドゥー教徒の女性をリンチした」「イスラム教徒の候補者がヒンドゥー教徒を根絶やしにすると発言した」といったうその映像や音声、情報がワッツアップで広まっているという。ヒンドゥー至上主義団体を支持母体に抱えるBJPと、世俗主義を掲げる国民会議派が対立する背景には宗教的な理由があり、それがフェイクニュースにも反映されているのだ。

 ワッツアップはプライベートなメッセージをやり取りするツールなので、ツイッターのように公開の情報ではない。そのため、第三者がその内容や出所、拡散の規模を把握することが難しく、ファクトチェックサイトもその対応に手を焼いている。ワッツアップを介したフェイクニュースの拡散は、インド以外の新興国や発展途上国でも社会問題になりつつある。

 プライベートな領域で拡散するフェイクニュースにどう対処すればいいのか。今後IT業界が直面する深刻な課題になるだろう。

週刊朝日 2018年6月8日号

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津田大介

津田大介

津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)

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