しかし、近年は「ひたすら知識を詰め込む」教育が問題視され、「自分で考えられるか」という教育が重要視されてきています。2020年度からセンター試験が廃止され、記述式の大学入学共通テストが取り入れられることが、その方向性を顕著に表しています。

■効率が悪いと思った授業は切り捨てる

 私の親は、かなりの放任主義だったので、そのおかげで私は、自分で考えて選択していく機会が多かったように思えます。たとえば高校のとき、ウツがひどいと感じたときは学校を休むことにしました。今振り返っても、無理して行っていたところで悪化していただけだったと思います。高3で理系なのに数学で偏差値29をとったとき、このままの勉強法では受からないと判断し「この授業は効率が悪いから聞かなくてもいい」と切り捨てて、コッソリ別の勉強をしました。他にも、先生が回収してしまった問題集の回答冊子を書店で買い直したり、計算機を使ったり、教科書を写せという宿題は単なる作業なのでコピーして貼りつけたり、ひたすら「ずる賢い」勉強法を考えました。そのおかげで、学校の先生が驚くほど飛躍的に点数を伸ばすことができたわけです。

 私の友人なんて、「この高校はダメだ」と早々に見切りをつけて中退し、大検をとって東大に合格したという、かなり思い切った行動をとった子もいました。「バカ正直」に学校に通っていたら目的が達成できない、と判断したのでしょう。「自分の中でより得なほうをとれる」とは、広義的にみれば「人生を通して重要なほうをとれる」という選択能力です。

「義務なのだから学校に行かせて勉強させないとダメだ」と怒る人もいるでしょう。しかし、もし子どもが風邪をひいたとき、義務だからと学校に行かせますか? 休ませますよね。それを「憲法違反だ」と責める人はいないでしょう。教育の義務と権利は、子どもが勉強したがっているのに、親が仕事を強要するなどして妨害してはいけない、というレベルの話です。風邪で休むのは、その日の授業と子どもの健康、どちらをとるかを天秤(てんびん)にかけ、子どもにとって大切なほうを選んだ結果です。「ずる賢い」経験も同様です。

 学校にいるぶんにはいいですが、年功序列や終身雇用も崩れてしまった今、社会に出てからは、「バカ正直」な教育しか受けていないとうまくいかないことが多くなるでしょう。万が一ブラック企業なんかに入ってしまったら、「バカ正直」に働く人はひたすら利用されるだけです。もちろん仕事だけでなく人生全体にもいえることですが、他人に文句を言われるから、批判されるからと、周囲の価値観を気にして自分の頭で行動を選択できない人は、結局、自分の本当にやりたいことがやれないまま終わってしまいます。

 1日たりとも休ませず学校に行かせることが親の役目ではありません。ときに「バカ正直」に、ときに「ずる賢く」、臨機応変に選択して、状況に応じて使い分けていけるような人間に育てること。これが今、現代を生きていくうえで必要とされる教育ではないでしょうか。

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杉山奈津子

杉山奈津子

杉山奈津子(すぎやま・なつこ) 1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など。ツイッターのアカウントは@suginat

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