山崎努さん(c)朝日新聞社
山崎努さん(c)朝日新聞社
樹木希林さん(c)朝日新聞社
樹木希林さん(c)朝日新聞社

 無駄をそぎ落とした絵と清貧を貫いた生き方で「仙人」と呼ばれた画家・谷守一(1880~1977)をモデルにした映画「モリのいる場所」が全国で上映されている。好演する俳優・山崎努さんと樹木希林さんに思いを聞いた。

【写真】樹木希林さん

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「これは……何歳の子どもの描いた絵ですか?」

 ある展覧会で、熊谷守一の絵を初めて見た昭和天皇は、付き人にそう尋ねたという。守一が69歳のときの作品だった。

 映画「モリのいる場所」は、そんなシーンから始まる。伝説の画家、熊谷守一(モリ)をモデルにした、沖田修一監督のオリジナルストーリーである。

 守一は1880年、岐阜県の付知(つけち)で生まれた。東京美術学校(現・東京芸術大学)西洋画科を卒業。若くして才能を認められながらも、絵で家族を養えるようになったのは50歳を超えてから。昭和7(1932)年、東京都豊島区に自宅を新築し、97歳で亡くなるまでこの家で過ごした。

 晩年の30年はほとんど家の外に出ず、虫や草花、鳥、など、庭の小さな生き物たちを眺めるのを日課としていた。その場では筆をとらず、夜になってから「学校」と称するアトリエにこもって描いた。白いひげをたくわえ、庭にたたずむさまは仙人のようだった。ただ、本人はそう呼ばれることを好まなかったそうだ。

 映画では、そうした守一のエピソードを織り交ぜながら、94歳の「モリ」と76歳の妻秀子をめぐる、ある夏の一日が描かれる。

 舞台は昭和49(74)年の熊谷家。結婚して52年となる夫妻のお茶の間には、さまざまな人々が集う。家事全般を手伝う姪の美恵、常連の画商、守一を撮影するために日参する若き写真家、隣の夫妻らのにぎやかな声が響く。

 モリ役を山崎努さん、秀子役を樹木希林さんが演じている。それぞれ50年超のキャリアを持つが、意外にも共演は初めて。

 山崎さんのモリは、毎朝、希林さん演じる「かあちゃん」に見送られ、“庭の探検”に出かける。切り株などに腰かけては、子どものようなまなざしで庭の小石や小さな生き物たちを飽かず眺める。

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