「スタジオのビルの屋上で、僕が1時間で日本語の歌詞を書き、一の宮はじめ先生が振り付けを考えたんです。YMCAのポーズは、一の宮先生が凝っていた少林寺拳法からヒントを得た」

 Aのポーズのあと、両手を真横に伸ばす振り付けだったが、西城さんは、「隣の人とぶつかるでしょ」と言って、縦のポーズに直した。

 気を使っているのかいないのかわからないが「秀樹らしい」と、天下井さんは苦笑する。「Y.M.C.A.」を披露するや否やファンはこの曲に熱狂し、会場は異様なほど盛り上がった。

「次の新譜で出そうよ」

 西城さんは提案したが、2月の発売まで1カ月を切っていた。予定の新曲の発売に向けてレコードのプレス工場はすでに稼働。

「僕がお願いしてきます」

 西城さんは自ら、神奈川県にあったプレス工場にテープレコーダーを抱えて飛び込んだ。スーツ姿でビール瓶用の黄色いコンテナケースの上にすっくと立ち、西城さんは集まった50人ほどの従業員に向かって叫んだ。

「僕の新曲を聴いてください」

 アイドルの思わぬ登場と目の前で熱唱された新曲に従業員が感激するなか、西城さんが頭を下げた。

「皆さん、徹夜作業になりますがお願いします」

 任せてくれよーー。頼もしい声がかえってきた。天下井さんは、この場面を決して忘れることはない。

「相手が社長でも一般の人でも、態度を変えることなく誠実に接する。それが秀樹でした」

 それまで平均30万枚の売り上げだった西城さんのレコードは、「YOUNG MAN」で年間80万枚を突破し累計200万枚に達した。8割が女性ファンだった購買層も男女比が並び、老若男女が口ずさむようになった。

 西城さんの真っすぐで前向きな性格は、芸能界の大御所にもかわいがられた。

NHKの番組で共演した石原裕次郎さんから名刺をもらった。裏を返すと、『ヨットを2隻持っているので、一緒に乗りませんか』と直筆のメッセージが添えてありました」(天下井さん)

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