そんな状況から抜け出すために、症状がある程度改善した患者に対して川村医師が薬物治療とともに行っているのが、「昼寝をしない」「図書館で2時間、何かに集中して過ごす」など、四つの課題だ。

 大手企業のうつ病復帰プログラムにも大なり小なりこれらが取り入れられている。「最初は実感がわかないでしょうが、徐々に負荷を増やして3カ月ほど続けると、『なるほど』と感じる部分が出てくるはずです」(同)

「病は気から」というが、世界で初めてストレスによる消化器症状や突然死のメカニズムを解明したのが、北海道大学遺伝子病制御研究所の村上正晃教授だ。

 その実験とは、マウスにある種の免疫細胞を注入してストレスをかけると、胃腸や心臓の機能に異常が生じて突然死が引き起こされた、というもの。免疫細胞を入れずにストレスだけかけたマウス、免疫細胞を入れてストレスをかけなかったマウスには、胃腸障害や突然死は生じなかった。

「注入した免疫細胞は『病原性CD4+Tリンパ球』といって、誰もが持っています。通常は活性化していない状態で体内に存在していますが、活性化すると脳のある特定の部位に集まることが今回の研究でわかりました。活性化するきっかけは、感染などに加えてストレスも可能性があると思われます」(村上教授)

 ストレスがかかる状態でその免疫細胞が活性化すると、その特定部位に炎症が生じ、新しい神経回路が働く。そこから分泌される神経伝達物質が胃腸や心臓にダメージを与え、突然死が起こるという。

 今のところ、体内の病原性CD4+Tリンパ球の量を検出する方法はなく、村上教授らがその方法を探っている段階だ。

「ヒトでのこの免疫細胞の関与はまだ明らかではありませんが、体質的にストレスに弱い人と強い人がいることは確か。少なくとも胃潰瘍(かいよう)や十二指腸潰瘍になりやすい人は、ストレスに弱い可能性がある。突然死のリスクを回避するためにも、胃の痛みは放置しないことが大切です」(同)

(本誌・山内リカ)

■久賀谷医師が勧める5つの習慣
(1)ときどき思考回路を止める
携帯の電源をオフにし、今いる場所から少し離れた場所で考えを手放す
(2)今この瞬間にいることを感じる
過去や未来のことを考えず、今目の前にあるもの(風景など)をただ感じる
(3)運動をする
運動は脳の神経細胞の成長を促す。心地よく感じる程度に身体を動かす
(4)睡眠をとる
7時間が理想的。睡眠は疲れによる老廃物を排除し、記憶を整理する
(5)善行を積む
感謝する、他人に優しくする、思いやるなど。これによりDMNが静まる

■川村医師が勧める4つの習慣
(1)昼寝をしない
どうしても寝たいときは25分以内にとどめる
(2)睡眠を7~8時間とる
昼間に身体を動かすと自然に眠気がくる
(3)毎日2時間程度(男性)、90分(女性)歩く
脳に酸素を送り込むことが目的
(4)図書館で2時間、何かに集中して過ごす
人が大勢いる中で集中する訓練

週刊朝日 2018年6月1日号