■根治と呼吸機能維持の二つを見極める

 肺は、右肺が三つ、左肺が二つの「肺葉」に分かれており、手術では、がんがある肺葉ごと切除する「肺葉切除」が標準治療とされている。しかし、早期の小さながんでは、さらに小さく切除する「縮小手術」を検討することもある。

 肺は一部切除しても、リハビリによってある程度は呼吸機能を回復させることができる。しかし、切除する範囲が大きいほど呼吸機能は低下してしまう。がんを取り残さないようにしっかり切除することが最優先だが、その上でできるだけ呼吸機能を温存できるように切除範囲の検討をする。「がんの根治と呼吸機能維持のバランスを見極めることが重要」と坪井医師は話す。

 手術の方法として、「開胸手術」のほかに、胸腔鏡を使用する「完全胸腔鏡手術」、胸腔鏡を併用する「胸腔鏡補助開胸手術(ハイブリッドVATS)」などがある。最新治療として、2018年4月から肺がんでもロボット手術が保険適用となった。しかし、「最新の治療法が最善の治療法とは限らない」と坪井医師は指摘する。

 完全胸腔鏡手術やロボット手術では、小さな切開で済むため低侵襲で術後の傷の痛みが軽く済むという利点がある。しかし手術時間がやや長くなりやすく、手術中の出血などの緊急時には迅速に開胸する必要があるなど、注意すべきことも多い。それぞれの方法にメリット、デメリットがあるが、治療成績や患者の予後には大差ないとされている。

 現在では、術野が十分にとれる程度に小さく(7~9センチ程度)開胸し、胸腔鏡を併用しておこなう胸腔鏡補助開胸手術が、最も安全性が高く有用な方法として多くおこなわれている。実際にどの方法を選択するかは、がんの大きさや場所、患者の状況、病院の方針などにより異なる。

「傷が小さいから良い、最先端だから良い、とは限りません。患者さんそれぞれの状況に応じて最善と思われる方法を検討し、医師と十分に相談した上で、患者さん自身が納得できる方法を選択することが大事です」(同)

(文・出村真理子)

※週刊朝日  2018年6月1日号