「でも、『監督をやってるな』という実感は、ほとんどなかったです。最初から最後まですべての作業に立ち会うことが、初めての経験だったことぐらいかな。ただ、現場では、もっと冷たくされることを覚悟していたんですよ。監督経験もないし、文化人枠みたいなものだから、『そんなことも知らないのか』みたいに言われて、叱られて、萎縮しまくるんじゃないかな、とか(笑)。でも、オリジナルの脚本を書いていたことで、結構リスペクトしていただけて助かりました。あるときなんか、ちょっと僕が迷っていたときに、助監督から、『何言ってるんですか。監督が書いた物語じゃないですか』って言われて、涙が出そうになりましたからね」

 とくに影響を受けた映画監督は、「ラブ・アクチュアリー」などを手がけたリチャード・カーティス。

「脚本家としても活躍して、ロマンチックコメディーを得意としていた彼が、最後に撮った長編映画が、父親をテーマにした物語だった。それも、自分にとっては感慨深いです」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日 2018年5月25日号