船旅を主題にした「ほどよい大きさの漁師の島」は、メンフィス・スタイルのソウル・テイストの曲。ゲスト参加の佐橋佳幸のギターが懐かしいフレーズを聴かせる。

 デヴィッド・クロスビーの近作などに刺激を受けていると語る鈴木が、ギターのハーモニックス奏法を多用した「Softly-Softly」では、ベンチに座り込んだ老人たちが思い出を語らう様子が思い浮かぶ。

 ザ・ビートルズやプロコル・ハルムへのオマージュとも言える演奏を織り込んだ「Unfinished Love」は、かつての名曲「ちょっとツラインダ」に通じる恋愛の傷心を歌ったラヴ・ソング。

「Speckled Bandages」は認知症の老夫婦の歌だ。シリアスな内容で、最後の“まだらの このバンデージ ぼくの首に”という一節に戦慄を覚える。鈴木が手がけたものに違いない。

 締めくくりの「シェー・シェー・シェー・DA・DA・DA・Yeah・Yeah・Yeah・Ya・Ya・Ya」は、チープなテクノ風を下敷きにしたファンキーなロック・ナンバー。赤塚不二夫の“シェー”をはじめ、トニー谷のギャグ、ビーチ・ボーイズ風のコーラスなどを盛り込んだユーモラスな曲だ。

 ロック世代にとっては懐かしく、若い世代にとっては刺激的に違いない要素をふんだんに採り入れた。現代社会をにらんだ“怒り”をあらわにし、“死”をテーマにした毒気のある曲の一方で、ユーモアやウィットに富んだ曲もある。このアルバムは、大胆で、過激な傑作だ。(音楽評論家・小倉エージ)

●『EXITENTIALIST A XIE XIE』(BETTER DAYS/日本コロムビア COCB-54260)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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