4月に亡くなった、元プロ野球選手の衣笠祥雄さんも発見しにくい上行結腸がんだった。

 医療者側は、診断力の向上を目指して、さまざまな研究を進めている。斎藤医師らの内視鏡科でも現在いくつかの研究を進めているが、そのなかで注目されているのが、「AIを活用したリアルタイム内視鏡診断サポートシステム開発」という研究だ。これは、大腸内視鏡の検査時に撮影される画像で、大腸がんおよび前がん病変をAIにより、リアルタイムに自動検知し、内視鏡医が病変を見つけるのをサポートするというものだ。プロジェクトを担当する同科の山田真善医師はこう説明する。

「研究の第1段階として、当科で診断された過去の内視鏡画像で診断のつけられた約5千例をAIに学習させて、新たな内視鏡画像を解析させたところ、がん発見率は98%でした」

 山田医師らは、この結果を2017年7月に同センターの記者説明会で発表した。

 がん発見率は、診断経験が豊富な医師や病院では診断精度が高かったが、医師の診断技術の差や、肉眼で見つけるのが難しい病変や発生部位によって診断精度にはばらつきがあり、24%が見逃されていたというデータもある。

 大腸がんで手術を受けた人の約6%が、内視鏡検査を受けていたにもかかわらず、後に大腸がんになったという報告もある。その内訳は、検査の見逃しが58%、患者が来院しなかったのが20%、検査後新たながんが発症したのが13%、内視鏡でのがんの取り残しが9%だ。

「今までは肉眼での認識が難しかった平坦な病変や陥凹型というくぼんだ病変も、AIによる診断で精度が高まります」(山田医師)

 現在までに約1万例を学習させ、今後は、同科を受診する患者の画像を使って解析する臨床試験に入る予定だ。19年に臨床での実用化をめざす。

「臨床試験の段階では当院でしか受けられませんが、今回の技術が実用化すれば、検査の精度が平均化され、がんの見逃しについては大きく減らすことができると思います」(同)

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