過去の画像を学習したAIを活用し、内視鏡検査でのがんの見落としを減らす(イラスト・今崎和広)
過去の画像を学習したAIを活用し、内視鏡検査でのがんの見落としを減らす(イラスト・今崎和広)

 大腸がんは早期発見できれば根治できるがんだが、がんができる場所によっては検査で見つけにくいこともある。見逃しがないよう、AI(人工知能)を活用して診断精度を高めようという動きが医療現場で活発になっている。

*  *  *

 大腸がんは、日本でもっとも多くの人がかかるがんだが、検診で早期に発見し治療すれば根治できる。ところが、大腸がんによる死亡者数は男性で3位、女性では1位と多い。その原因の一つに検診受診率の低さがある。便潜血検査の受診率は、地域差はあるものの、平均で男性44.5%、女性38.5%だ。

 便潜血検査は、便に血が混じっていないかどうかを調べる、自治体や企業の検診で実施される検査だ。2日間検査する方法で、どちらかでも陽性なら、精密検査の大腸内視鏡検査が推奨される。大腸内視鏡検査は、肛門から内視鏡を入れて、カメラで腸内を写し観察することのできる検査だ。

 大腸内視鏡検査には、S状結腸検査という、直腸の上のS字にカーブする部分まで内視鏡を入れる検査と、いちばん奥の盲腸まで観察する全大腸検査がある。

 日本人は直腸とS状結腸のがんが多いこと、大量の下剤を飲まずに浣腸のみで比較的平易に検査ができることから今もS状結腸検査を精密検査としておこなう施設もある。しかし全大腸検査を勧める専門家は多い。

■腸の奥を調べるには全大腸検査が有効

「全大腸検査は、まだ明確に死亡率を下げるという科学的根拠が少ないため検診としては保険適用になっていませんが、技術のある医師ならほぼ確実に有効な検査ができることがわかっています。多くの観察研究でも死亡率の抑制が証明されています。今後、日本を含め世界中で進む科学的根拠の高いランダム化試験の結果で証明されるでしょう」

 そう話すのは国立がん研究センター中央病院内視鏡科科長の斎藤豊医師だ。内視鏡治療において全国屈指の実績を誇る。

「がんになる前の『前がん状態』や早期がんのポリープ、がんが粘膜にとどまっている病変のうちに見つけることができれば、内視鏡治療でほぼ根治を見込めます。便潜血検査では、上行結腸がんなど腸の奥についてはわからず、また早期がんは発見できません。S状結腸検査も腸の奥についてはわかりません。できれば50歳を過ぎたら一度は全大腸検査を受けるべきです」

次のページ