オカダさんの妻の血圧を測る高瀬さん。食器棚のガラスにはクリニックの名刺が貼られている
オカダさんの妻の血圧を測る高瀬さん。食器棚のガラスにはクリニックの名刺が貼られている
在宅医療を受けた推計外来患者数の年次推移(週刊朝日 2018年5月4日-11日号より)
在宅医療を受けた推計外来患者数の年次推移(週刊朝日 2018年5月4日-11日号より)

 身近な存在になりつつある「在宅医療」。実際にどんなメリットがあるのか? 現場を取材した。(※患者と家族はすべて仮名)

【グラフで見る】こんなに変わった!在宅医療を受けた推計外来患者数の年次推移

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 高齢化社会の到来で、認知症の家族が自宅で暮らすケースは増えている。大田区で在宅医療を中心に行うたかせクリニック(東京都大田区)理事長の高瀬義昌さんは、認知症患者の在宅医療に詳しい。

「確かに、昔に比べて認知症で入院するケースはだいぶ減りましたね。今は気持ちの不安定さが行動に表れる『BPSD(行動・心理症状)』が強く出ているとき以外は、自宅や高齢者施設でみることができるようになってきています」

 高瀬さんは、在宅での認知症の治療で意識していることがある。「家族の気持ちを一つにすること」だ。

「患者さん本人の気持ちが主体ですが、ファミリーカウンセリングの形で、家族にどうしたいか話を聞いて、気持ちを整理する。すると薬を使わなくても、不思議と患者さんの症状は安定してきます」(高瀬さん)

 同クリニックがみている認知症患者のなかには、夫婦ともに認知症、認知症の一人暮らしなど、一見、在宅医療が難しそうなケースも少なくない。

 夫婦で認知症というオカダさん夫妻(夫93歳、妻87歳)。「お食事は?」「済ませました」「リハビリパンツは慣れた?」「慣れました」といったやりとりが続く。昔話や簡単な会話はできるが、それ以上のことを聞くのは難しい。訪問診療があったこの日、帯状疱疹を予防する水痘ワクチンを接種。入院するリスクを減らすためだという。

「夫婦って不思議なもので、一人が入院などで家からいなくなると、もう一人も症状が悪化するというケースが多いんです。だから二人ともお元気でいることが大事なんです」(同)

 オカダさん夫妻は二人とも今のところ認知症の薬は飲んでいない。現在は症状が落ち着いているからだ。

「適切な在宅医療が受けられれば、認知症患者さんもこうして薬を減らしたり、場合によってはなくしたりすることもできます」(同)

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