そこで、適度に食塊があって、舌と上あごでつぶせるぐらい噛みやすく、のみ込みやすい、高カロリー食を考えた。章男さんが退院後12日目に食べた「流動食クリームシチュー」だ。

 にんじんやじゃがいもなどの野菜を、すべて7ミリ角ほどに小さく切る。舌と上あごでつぶせるほど軟らかく煮て、ホワイトソースを混ぜる。鮭のハラスをオリーブ油で7割ほど火を通し、細かくほぐしてシチューに混ぜる。さらに、白菜の葉の部分をとろとろになるまで煮てミキサーにかけ、シチューにトッピングした。

 すると、食べることへの意欲が薄れていた章男さんが、「おいしい!」と喜んでくれた。料理は、味とともに見た目が大事なことを改めて実感したという。

 食べやすくする工夫の一つが「ふわふわシート肉」=レシピ参照。鶏ひき肉でシートを作って、棒状に切ってごまだれをかけると、棒棒鶏のできあがり。舌と上あごでつぶせるぐらいの軟らかさだから、歯が悪くても食べやすい。シート肉は1食ずつ作ると手間がかかるため、まとめて作って冷凍保存すると便利だ。

 ミキサーにかけた野菜をキューブにして冷凍する「野菜ピュレ」や、ホワイトソースなども用意しておくとよい。こうしたベース素材の組み合わせで、メニューの幅がぐっと広がる。

 体重が戻った章男さんは職場に復帰できたが、12年5月にがんが再発、11月に他界した。

 一人でも多くの人が食べることを楽しんでほしい。そう思って、自らのレシピを参考にしてほしいという。

「毎日作るのは大変なので、市販品を取り入れ、レパートリーを増やすとよいでしょう。お刺し身が好きな方は、マグロの赤身をすりつぶしてタルタルソースであえると、口のなかでバラけず食べられます。好物を取り入れると、体力ばかりでなく、元気も取り戻せます」

 健やかな日常生活は、しっかりと食べて栄養をとることから始まる。フレイルに陥らないように、まずは食生活から見直したい。(村田くみ)

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