【文豪の湯宿】理髪師の実話から着想 田宮虎彦が「銀心中」を執筆した宿

週刊朝日
宿泊のたび3階20番の部屋を取ったという
拡大写真

宿泊のたび3階20番の部屋を取ったという

 文豪たちの作品に登場する温泉宿を訪ねる新連載「文豪の湯宿」。今回は「田宮虎彦」の「藤三旅館」(岩手県・花巻温泉郷鉛温泉)だ。

【写真】部屋の様子はこちら

*  *  *
 昭和25年冬、田宮虎彦は、落ち着いて執筆に専念できる宿を探していた。岩手出身の後輩から紹介されて訪れたのが、藤三旅館だった。執筆には最適な見晴らしの良い3階20番の部屋で、田宮は何日もの間、ただ物思いに耽(ふけ)っていた。小説の題材を見つけられずにいたのだ。

 ある日、気分転換に宿の自炊棟にあった理髪店で散髪をした。話し好きの理髪師とあれこれ話していると、理髪師は「兵隊に行って帰って来たら、女房の奴、俺が死んだと思って弟と結婚していた」という友人の実話を語る。この話が大きなヒントとなり、田宮は1カ月ほど部屋に籠もり「銀(しろがね)心中」を書き上げた。のちに、乙羽信子主演で新藤兼人によって映画化されたほどの話題作である。

<この夏、佐喜枝が珠太郎を追ってはじめてこのしろがね温泉に来た時には、この山の中の湯宿の部屋という部屋の窓々に、電燈が明るくまたたいていた>

 いうまでもなく、「しろがね温泉」とは「鉛温泉」のことだ。2年後に発表された同作を読んで初めて、宿の当主は田宮が宿泊中に書いた作品が何だったかを知ったという。

(文/本誌・鈴木裕也)

■藤三旅館(ふじさんりょかん)
岩手県花巻市鉛中平75-1

週刊朝日 2018年5月4-11日合併号

続きを読む

この記事にコメントをする

TwitterでAERA dot.をフォロー

@dot_asahi_pubさんをフォロー

FacebookでAERA dot.の記事をチェック