八甲田連峰の麓にある酸ケ湯温泉(青森県)の大浴場「ヒバ千人風呂」は、300年にわたって人々を癒やし続けてきた
八甲田連峰の麓にある酸ケ湯温泉(青森県)の大浴場「ヒバ千人風呂」は、300年にわたって人々を癒やし続けてきた

 かつての日本人は、農閑期などに湯治のため温泉場で長期滞在して療養しました。日常に疲れた現代人にとっても、温泉につかる心地よさは究極の癒やしといえます。「みんなの漢字」2017年3月号では、知っているようで知らない、温泉のパワーについて取材しました。今年のゴールデンウィークは、リフレッシュのいい機会。湯治のおさらいをしながら、自分に合ったお湯につかりましょう。

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 病気の治療・療養のために温泉を利用したかつての湯治は、一週間で「一巡り」と呼ばれるように、長期にわたって温泉地に逗留するものでした。古くからの湯治場では自炊設備を備えた宿泊施設があり、リーズナブルな宿泊料金を設定しています。近年では週末や連休などを利用した「プチ湯治」も人気を集めています。

■天下人・家康も、熱海でリフレッシュ

「パソコンによる目の疲れや肩の凝り、腰痛など、多くの現代人が悩まされるちょっとした体の不調にも温泉は効果的。日常生活から離れて刺激を受ける『転地効果』により、心身のリフレッシュが期待できます」と、温泉と宿のライター・野添ちかこさんは話します。

 奈良時代に編纂された『出雲国風土記(いずものくにふどき)』には、島根県の玉造(たまつくり)温泉について「一たび濯(すす)げば形容(かたち)端正(きらきら)しく、再び浴あみすれば万(よろず)の病悉(ことごと)くに除(のぞ)こる」と記載されており、当時の人々は温泉の効能を経験から知っていました。江戸幕府開府直後の1604(慶長9)年には、徳川家康が義直、頼宣の2人の子どもを連れて湯治のため熱海に訪れ、7日にわたって心身の療養をしています。

■泉質を参考にして、好みの温泉を探そう 

 江戸、明治時代に盛んに作成された「温泉番付」は、温泉地を大相撲の番付に見立てて格付けしたもの。評価の基準は「体に効くか」にあり、温泉に体の治癒を期待していたことを裏付ける史料といえます。

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