夫:僕は初・海外旅行。本当に何もわからなかった。

妻:「出入国カード」の書き方も知らないので私のを丸写しさせたら、性別欄のF(女性)、M(男性)のFにチェックをしちゃった。「うーん、そこからか!」って(笑)。出発してから3カ月くらいは「失敗したな……」とひそかに思ってました。

夫:1週間目にはカンボジアでケンカして、彼女が家出ならぬ“宿出”をしたり。中国では8時間くらいケンカし続けたよね。

妻:理由は常にくだらないこと。カンボジアでは「パンが食べたい」「あそこに売ってるよ」「ああいうパンじゃないんだよな」「なによ! 親切に言ってるのに!」で大ゲンカ(笑)。

夫:中国では、「絶対音感は必要か」「いや、いらないんじゃないか」と延々と続けた。

妻:限りなくどうでもいい(笑)。

夫:旅行中のケンカって「明日、会社に行かなきゃ」などの縛りがないので、エンドレスになっちゃうんですよ。

――チベットの検問所で賄賂を要求されたり、エチオピアで南京虫にやられたり。さまざまなトラブルに見舞われながら、夫婦の絆も次第に深まっていった。そんな旅の様子をホームページに逐一アップし、大きな反響を呼んだ。

夫:当時はいまのようにブログを簡単にできるような環境ではなかったんです。だから自分でホームページを一から作った。

妻:彼にIT関係のスキルがあったのが大きかったですね。それに二人とも出版社勤務で、文を書くことは得意だった。

――結局、旅は1年8カ月に及び、訪れた国は45カ国。帰国して1年後にホームページの記事をまとめ、共著として出版した。

夫:当時は「バックパッカーで世界一周ができる」とあまり知られていなかったし、反響が大きかった。

妻:しかも一人230万円でできたから、「やってみたい」という人がすごく増えて。

「『何かを得るため、とは考えない』 世界一周信仰旅行した夫婦の“旅”観」へつづく

(聞き手・中村千晶)

週刊朝日 2018年4月27日号より抜粋