林:それを今回、どうして漫画にしようと思ったんですか。

鉄尾:そのあと、池上彰さんとか、宮崎駿さんとか、錚々たる方があの本について語っていたんですよ。それで読み返してみて、さらによさがわかってきたんです。

林:宮崎さんは昨年、「君たちはどう生きるか」という長編アニメを撮ると発表されましたよね。

鉄尾:宮崎駿さんは昔から『君たちはどう生きるか』が大好きだったそうですよ。でもまあ、僕はいわゆる古典という意味でのいい本だと思っていたんですね。それが5年ぐらい前、うちの編集部の30歳ぐらいの編集者が、「僕、この本が大好きなんです」と言うのを聞いて、「若い世代も読むのか」とびっくりしたんです。さらにある日、同じく30歳ぐらいの女性編集者の机の上に、読み古した『君たちはどう生きるか』という本が置いてあったんです。

林:岩波文庫版が?

鉄尾:そうです。彼女も「私の大好きな本です」と言うので、この本は世代を超えて今の時代に通じると思ったんです。ただ、編集者ならともかく、ふつうの人が岩波文庫を読むことはあまりないんじゃないかとも思いました。

林:そうですよ。相当のインテリで本好きじゃないと。

鉄尾:じゃあ、伝え方を変えればいいんじゃないかと思って、それで漫画にしようと思ったんです。「漫画でわかる日本史」とか、あるじゃないですか。それから、村上龍さんが経済の小説を書きだしたころ、龍さんに「専門外のことなのによく書けますね」と言ったら、「漫画だよ。漫画で専門的な情報を得るのがいちばん手っ取り早い」ということをおっしゃっていて、その言葉が頭のどこかに残っていたような気もします。

林:でもそれって、90年代の手法じゃないの?

鉄尾:漫画にすると子どもに読んでもらえると思ったんですね。児童文学なので、最終的には子どもに届けたいなと。僕ら世代はこの本の名前は聞いたことがあるわけですから、そこに子どもも含めた若い人が加われば、裾野が広がるんじゃないかという感じがしたんです。

林:漫画家を選ぶときに、大御所の先生、たとえば、ちばてつやさんに頼もうとか思わなかったんですか。

鉄尾:文壇もそうですけど、林さんに小説を書いていただきたいと思っても、50番目ぐらいに並ぶわけじゃないですか。

林:50番なんてことはないけど、つき合いがないところには書かないですね。

次のページ