実はシリーズ興収記録は、この『純黒の悪夢』で跳ね上がっている。13年の『名探偵コナン 絶海の探偵(プライベート・アイ)』が36.3億円、14年の『名探偵コナン 異次元の狙撃手(スナイパー)』が41.1億円、15年の『名探偵コナン 業火の向日葵(ひまわり)』が44.8億円、そして『名探偵コナン 純黒の悪夢』で63.3億円と大きく伸びた。17年の『名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター)』は68.9億円と、さらなる伸びを見せた。

 諏訪さんによると、やはり『純黒の悪夢』は特別な作品だった。記念すべき劇場版第20作で、名探偵コナンの根幹でもある「黒ずくめの組織」をストーリーに絡めた。組織の一員でもある安室と、かつて組織に潜入捜査をしていたFBI捜査官・赤井秀一の2人の対決を取り入れた。さらに初の試みとして入場者プレゼントを実施。原作の漫画家、青山剛昌さんからのメッセージカードに、歴代の作品から好きなものを無料で視聴できるシリアルコードを付けて、400万人限定で配布した。諏訪さんも「黒ずくめの組織に触れると反応がいい。赤井と安室にも人気が集まった」と当時を振り返る。

 アニメ評論家の藤津亮太氏も『純黒の悪夢』について、

「推理ものというよりスパイアクション。黒の組織の登場は『何か起こるんじゃないか』という期待感をあおる上で、すごく大きい要素。劇場版らしいスペシャル感が前面に出ていた」

 と評する。その流れを引き継いでいるのが、安室メインの設定になっている今作なのだ。

 諏訪さんによると、安室に頼っていいのかという迷いもあったが、「逆に安室を教えていこうよ」という方向に転換していったという。

「安室の話だと公安だよね。公安といえば警察や検察との絡みなど、(脚本家の)櫻井(武晴)さんが超得意のエリア」

 テレビ朝日の人気ドラマ「相棒」シリーズの脚本も手掛ける櫻井さんも「書けると思いますよ」と快諾してくれて、今作が走り始めた。

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