垣添:どこまでも前向きでいらっしゃいます。
石:まあ、少なくとも後ろ向きではないですね。とりあえず前を向いて行けるところまで行ってみようと。
垣添:身じまいのようなことは何かやっておられますか?
石:はい。がんになる前から、息子2人への遺言信託を作りました。孫への教育資金の贈与も行いました。
垣添:ほかにもありますか?
石:僕は、さまざまな葬儀やお別れの会に出てね、つくづく自分に合ったものが少ないなと思っています。だから、自分のことは、書き残しています。
垣添:どういうふうに?
石:お線香と、お坊さんと、お香典。3点セットは一切お断り。お別れの会を、如水会館でやります。麗々しいスピーチはやめて、来られた人がバラやカーネーションを備えてくれればいい。
垣添:スマートですね。
石:別室に、サンドイッチ程度で歓談する場を設けます。過去の業績は一切抜きです。会費制にもしません。骨も、アルプスの氷河に散骨してもらいたいんです。
垣添:私も、お墓から女房の骨を出して、思い出深い奥日光に一緒に散骨してもらおうと思っています。最後に、特にがんサバイバー(経験者)に対して、メッセージをいただけますか。
石:自分から余命とか生存率を話題にしないほうがいいですね。すい臓がんのステージ4だと5年生存率は1・4%。でも、実際に10年生きている人がいるのね。女房と私、喜んでいるんです。長期のほうを目指せばいい。明るくいこう、ということですな。
いし・ひろみつ/1937年、東京生まれ。一橋大学経済学部卒。一橋大学長、放送大学学長を歴任。著書に『財政改革の論理』(日本経済新聞社)など。学生時代は山岳部で、趣味はスキー、囲碁など
かきぞえ・ただお/1941年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒。国立がんセンター中央病院長、同総長などを経て、公益財団法人「日本対がん協会」会長。全国3500キロの「がんサバイバー支援ウォーク」を展開中
※対談の様子(動画)は、日本対がん協会「がんサバイバー・クラブ」で視聴できます。
(構成/中村智志)