「神戸アイセンター」には、病院施設のほか理化学研究所、細胞培養施設、ビジョンパークが入居し、連携している(撮影/直江泰治)
「神戸アイセンター」には、病院施設のほか理化学研究所、細胞培養施設、ビジョンパークが入居し、連携している(撮影/直江泰治)

 注目されるiPS治療。初めて治療に応用されたのは眼の病気だ。3月27日発売の週刊朝日ムック『眼の病気&老眼がまるごとわかる2018』では、最先端の医療現場をルポした。

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 体のさまざまな臓器や組織に分化できるiPS細胞。2007年に山中伸弥氏率いる研究チームが作製に成功して以来、さまざまな病気の治療に道を開くことが期待され、大きな注目を集めてきました。

■根治を見込める治療として期待

 iPS細胞が初めて治療に応用されたのは、「眼」の病気です。患者は右目の加齢黄斑変性を患う70代の女性。14年9月、臨床研究として患者自身の細胞から作り出したiPS細胞を使い、新たな網膜色素上皮細胞に分化させて、機能が低下した古い色素上皮細胞の代わりに移植しました。

 現在、加齢黄斑変性におこなわれている標準治療では、病気の原因になっている網膜色素上皮細胞を元に戻すことができないので、完全に治すことはできません。iPS細胞を利用した治療は網膜色素上皮細胞を新しいものに置き換えるため、根治を見込める治療として期待されています。

 一連の研究や治療を主導してきたのは、理化学研究所や神戸市立医療センター中央市民病院などで構成された研究チームです。17年12月には中央市民病院眼科と先端医療センター病院眼科が統合して「神戸市立神戸アイセンター病院」が開院し、チームのメンバーが各々の施設から移ってきました。同院院長に就任した栗本康夫医師もその一人です。

「院内に理化学研究所の研究室も設置し、より密接に連携しながら活動しています」(栗本医師)

 iPS細胞が他の臓器よりも先んじて眼の病気で臨床試験を始めることができたのは、いくつかの幸運が重なっています。まず加齢黄斑変性の治療に使う網膜色素上皮細胞をiPS細胞から作る方法が、たまたま最初に見つかったこと。そして眼は深部の臓器ではなく体の表面にある器官なので、処置や観察がしやすいということです。

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