「スポーツの世界では『試合は練習のようにやれ。練習は試合のようにやれ』と言われます。試合になると、緊張することは避けられません。だからこそ練習も試合同様の緊張感を維持して行うことで試合で味わう緊張感に慣れておくことが大事なのです。ただ練習メニューをこなすだけでは、この緊張感から遠ざかってしまい、試合で大慌てしてしまうことになりかねません」

 普段から緊張に慣れてくると、本番前の緊張をコントロールする方法もどんどん見えてくる。

「僕がよくやっていたのは、緊張したらポンポンポンッと心臓の周辺をたたくこと。そして手指を動かし、体の末端を緩ませる。そして顔にはホットタオルをフワッとのせたようなイメージをして表情筋も緩ませるのです。ポカーンと口を開いてダラッとした顔をイメージしてください。そして自分はいまリラックス状態にあることを体に言い聞かせると、副交感神経が働き、過度な緊張をおさめることができるのです。また1分間脱力して、目を閉じ、耳もふさぎ、五感を1回ストップするという方法も現役時代によくやりました。これをやると冷静さが取り戻せ、集中力が高まります」

 そして普段から、プレッシャーがかかったときほどゆっくり行動する訓練をしておく。

「プレッシャーがかかって緊張すると、一分一秒が異常に早く感じられ、ますます慌てて、時間のコントロールができなくなります。“本番”でそういう状態に陥らないようにするには、緊張したときこそゆっくり行動する練習を普段からしておくことです。文字を書くのでも、話すのでも、ドキドキしているときほどワンテンポ遅く、を心がけましょう」

 本番というヤマを乗り越えたあとは、ネガティブ意識を持たないことも大切だ。

「何か失敗したとしても、悪いことを考え始めれば気持ちは全部マイナスの方向に落ちてしまいます。ネガティブな発想は深呼吸してすぐに吐き出すこと。そして失敗した理由や言い訳は口にしない。言えばフラストレーションに。でも言わずに『結果は次に必ず出す』と思えば、大きなモチベーションに変わるのですから」

(エディター・赤根千鶴子)

週刊朝日 2018年4月20日号