そして結論は、「十分によからん事を好むべからず。是皆、わが気を養なふ工夫なり」(同)。完全を求めないことが養生になるというのです。

 この意見には私も賛成です。健康法のひとつとして気功をやる場合でも、動きや形に完全さを求める真面目な人と、それほど形にこだわらない人がいます。完全を求める人は気功の練習に余念がなく、細かい動きまで神経を使っています。一方、こだわらない人はそれほど練習にも熱心ではありません。ところが、こだわらない人の方が形はともかく、気功の真髄である内なるエネルギーを高めることが自然にできていることがあります。完全を求める人は形にとらわれて、気功の大きな世界が見えていないこともあり得るのです。

 気功に限らず完全を求める人は、様々な健康法に詳しく、サプリメントもまめに利用します。こだわらない人は健康法には無頓着で、好き勝手な食生活だったりします。ところが結果的に、こだわらない人の方が元気なこともあります。こだわらない人は余計な重荷を負わずに、良質な心の負担を持つことによって、自然治癒力を高めているのだと思います。

『養生訓』研究の第一人者だった故・立川昭二先生は「益軒は養生訓で粋な生き方を説いていた」と語っています。

 哲学者、九鬼周造の著書『「いき」の構造』によると、粋とは、「垢抜して(諦)、張のある(意気地)、色っぽさ(媚態)」のことだといいます。

 やはり垢抜けしている人は、何においても最高の境遇を作ることにはこだわらず、限界の手前でうまくつきあっているのでしょう。そこに張りのある色っぽさが生まれるのです。これこそ、養生の道といえます。

週刊朝日 週刊朝日 2018年4月13日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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