大瀧はかねてからのポップス志向をシリア・ポールという素材を得て具現化させ、プロデュース手腕を発揮。それがのちに“ロンバケ”を生み出し、アイドル歌謡に新風を吹き込んだ松田聖子の「風立ちぬ」にもつながった。

 一方、本作で歌手活動を再開させることになったシリアには不安もあったというが、子役や女優としての経験も生かし、大瀧の要望にしっかり応えている。

 大瀧とシリアのコラボ作品は本作だけに終わった。その事実も貴重な名盤としての評価を高めた理由のひとつに挙げられよう。大瀧自身も、将来的な再評価を見据えてあえて1枚限りにしたと、のちに語っている。

 同時に発売された大瀧詠一作品集Vol.3『夢で逢えたら(1976~2018)』も要注目だ。大瀧や吉田美奈子、シリア・ポールのほか、サーカス、鈴木雅之、沢田知可子、太田裕美、薬師丸ひろ子ら様々なアーティストによる「夢で逢えたら」をCD4枚に計86曲も収録した異色のアルバムだ。(音楽評論家・小倉エージ)

●『夢で逢えたら VOX』=LP2枚+EP2枚+CD4枚がセットの完全生産限定盤(ソニー・ミュージック SRJL-1112~1119)
●『同』=CD2枚組の通常盤(同 SRCL-9565~9566)

著者プロフィールを見る
小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

小倉エージの記事一覧はこちら