証人喚問を見ていてつくづく実感するのは、安倍さんが、権力にすりよる男からのアイ(漢字で書くほどでもない愛)と、「模範解答」を導き出す役を演じた丸川珠代氏のような女の媚によって支えられていること。政権が長引くほど、アイと媚は露骨になっていくものなのだろう。それはもう“猥褻”の域ではないか。猥とは秩序なく乱れるさまをいう。それは私が生きている社会の秩序、誠実、言葉の意味が壊され、足元が崩れていくような恐怖だ。ただ単純な「権力批判」ではなく、自分の人生と生活を守るために森友問題を曖昧にしてはいけない。

 渦中の人には問題の本質は見えないものだ。昭恵さんも本気で「何が悪い」のかよくわかっていないのだろう。だいたい安倍さんの周りの人間で、アイも媚も示さなかったのが、唯一、妻の昭恵さんだ。これも日本のよくある夫婦の形で、夫への無関心と、もてあます暇とエネルギーの結果がここ。ただそれだけなのに、何でこんなに大きな問題になったのかしら?というのが、昭恵さんの実感ではないか。そしてそれは、女を権力から徹底的に排除し、“嫁”や“母”、または“愛人”的立場でしか「利用」してこなかった日本社会で起きるべくして起きた歪みのようにも見える。総理が妻を御せないことが問題なのではなく、総理妻が浅はかなのが問題なのではなく、日本の男女関係の歪みが取り返しのつかない大きな政治問題に発展した、それも死者を出すほどまでの……と考えると、エンゼルに、ただ眺めているだけじゃなくて、なんとかしてください、と神頼みしたくもなる。

週刊朝日 2018年4月13日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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