韓国の文在寅大統領(左)とトランプ大統領(中央)のタッグから取り残された感がある安倍首相(c)朝日新聞社
韓国の文在寅大統領(左)とトランプ大統領(中央)のタッグから取り残された感がある安倍首相(c)朝日新聞社
(左から)中国を電撃訪問した金正恩夫妻と、歓迎した習近平夫妻(AFP=時事)
(左から)中国を電撃訪問した金正恩夫妻と、歓迎した習近平夫妻(AFP=時事)

 国会が森友問題で揺れていた3月25~28日、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が電撃的に北京を訪問し、習近平・国家主席と会談した。中国外務省の発表では、金正恩氏は非核化に前向きな姿勢だったという。だが、その言葉は本当なのか? 軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が検証する。

【中国を電撃訪問した金正恩夫妻と、歓迎した習近平夫妻】

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 北朝鮮は「非核化に応じる」「いや、時間稼ぎだ」などとさまざまな憶測が飛び交っているが、シナリオを決めるのは金正恩だ。

 本稿では、単なる憶測ではない二つの指標を基に、将来予測を考えてみたい。 まず、検証するのは「北朝鮮のこれまでの言動」だ。

 北朝鮮はこれまで、さまざまな主張を公式に発信している。一見するとトンデモ無法国家にみえるが、彼ら自身は、自分たちの行動の正当性を主張し、有言実行しているのだ。

 では、北朝鮮側の主張はどうなのか?

 まず、1月1日に金正恩は、「新年の辞」で以下のように語っている。

『ついにいかなる力によっても、何をもってしても逆戻りさせることのできない強力で頼もしい戦争抑止力を保有した』

『敵の核戦争策動に対処した即時の核反撃作戦態勢を、常時維持しなければならない』

 アメリカ相手に一歩も引かない意思表明であり、非核化を匂わせる文言はひとこともない。また、核ミサイルの量産と実戦配備を明言している。

 その後、2月の平昌五輪での和解ムード攻勢を経て、3月5日に韓国特使団と平壌で会談した金正恩は、米朝首脳会談への意欲を語った。その時の北朝鮮からの提案は以下2点だ。

『米朝首脳会談を含め、アメリカとの直接対話を希望する』

『対話継続中は、新規の核・ミサイル実験は凍結する』

 それ以外には、実は新たな話はない。韓国からは「金正恩は非核化に意欲的だ」という印象の情報が流れているが、金正恩の言葉は正確には以下である。

『軍事的脅威が除去され、体制の安全が保証されれば、核を保有する理由はない』

 あくまでも条件付きであり、これは実は、従来の北朝鮮の立場とまったく変わらない。北朝鮮はもともと金日成時代から「朝鮮半島の非核化」をタテマエ上は主張しており、自らの核開発の唯一の口実を「アメリカの軍事的脅威」としている。今回の金正恩の言葉は、それを踏襲したにすぎない。ここで留意すべきは、北朝鮮は単に体制保証の約束を米国に求めているわけではないことだ。約束などは、政権の意向次第でいつでも変更される可能性があり、北朝鮮にとっては安全保障の担保にはならない。体制保証のためのリアルな措置が必要で、それが軍事的脅威の除去だ。つまり、在韓米軍の撤退は最小限の条件であり、それに加えて、在日米軍の存在、あるいは日米安保条約の存在、さらにはグアムの戦略爆撃機、戦略原潜など、北朝鮮からみた「軍事的脅威」は幅広い。北朝鮮がどこまで条件に加えてくるかは不明だ。

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