「それだけだとちょっと寂しいので、梅干しとたくあんを置いて少しだけかわいくしたのが、私の考えるサザエ風。茶色中心のお弁当だけど、おいしいのはやっぱりこんな味」(伊藤さん)

 伊藤さんは、娘が高校を卒業するまで10年間、お弁当をつくり続けた。その経験は『おべんと帖 百』や『おべんと探訪記』(いずれもマガジンハウス)にまとめられている。紹介されているお弁当は、おひたし、里芋の煮物、ひじきの煮物など“地味系”のおかずが多いが、どれもおいしそう。どこか、サザエさんの世界観と通じるものがある。

「お弁当のおかずは、自分がおいしいと思うものをつくるに尽きる。地味なものばかりですがね」(同)

 とはいえ、毎朝続けるのは大変な作業。伊藤さんは10年間を振り返って、お弁当づくりの意味をこう語っている。

「忙しくて娘とあまり話せない日があっても、空になったお弁当箱を見ると、今日も一日元気で過ごしたんだなと思えます」

 日々のお弁当はつくる人と食べる人の気持ちの“キャッチボール”でもある。家族がおいしいと思えるのが一番だが、つくり手の自分が疲れてしまっても続かない。サザエさんのように頑張りすぎず、伊藤さんのようにいつものわが家の味を詰めるのが継続のコツのようだ。(本誌・鎌田倫子)

週刊朝日 2018年4月6日号