田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
トランプ大統領は何をどうしようとしているのか(※写真はイメージ)トランプ大統領は何をどうしようとしているのか(※写真はイメージ)
 国務長官を更迭したトランプ大統領。ジャーナリストの田原総一朗氏は、大統領の頭を占める、あることを推測する。

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 いったい、トランプ大統領は何をどうしようとしているのか。

 トランプ氏は3月13日、ティラーソン国務長官を更迭した。もっとも、昨夏にティラーソン長官が「北朝鮮との対話」を表明したときから、米国の事情通たちの間では「トランプ氏はティラーソン氏に強い違和感を持っており、いずれ更迭するのでは」とみられていた。

 さらに、3月16日にはトランプ氏がマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)の解任を決意したと報じられた。後任にはジョン・ボルトン元国連大使の名前が取り沙汰されている。ボルトン氏はかつてイラク戦争を推進したネオコンの代表格だ。イラク戦争は大失敗だったと米国民が深く反省して、だからこそオバマ氏が黒人初の大統領となったのだった。それをネオコンの代表格であるボルトン氏をわざわざ起用するとは、トランプ氏はどういう意図なのか。

 さらにトランプ氏は、ティラーソン氏の後任にCIA長官のポンペオ氏を起用した。対北朝鮮の武力行使に賛成している人物だ。

 ところで、3月5日、韓国の特別使節団が北朝鮮を訪問して金正恩委員長と会談したとき、金正恩氏は「米国がわが国の安全を保証してくれるのならば、われわれは核兵器を保有する必要がない」と言い切った。これは世界中の大ニュースとなった。

 金正恩氏は、北朝鮮が米国に届くICBMに載せられるほどまでの核兵器の小型化にほぼ成功したと宣言している。それに対してトランプ大統領は、我々は武力行使も辞さない、と強調し、北朝鮮に対する圧力を徹底的に強めている。米朝間で、いつ戦闘が起きてもおかしくない緊張が続いている。その最中に、金正恩氏が驚くべき発言をしたのである。

 それに対して日本政府は、金正恩氏の発言などまったく信用できない、と全面的に否定的であった。

 
 たとえば、2003年に北朝鮮が核開発をしないという前提で6カ国協議が始まり、北朝鮮への経済援助の方法などが議論された。ところが、北朝鮮は各国を裏切ってひそかに核開発を行い、06年には核実験を敢行した。以前も北朝鮮は米国を裏切ったのだから、トランプ大統領も北朝鮮を信用するはずがない。日本政府はそう思い込んでいたのである。

 ところが、トランプ氏は使節団に会い、誰にも相談せずにいきなり5月までに米朝首脳会談をやる、と表明した。これには世界中が仰天した。

 トランプ氏は何を考えているのか。おそらく頭の中は99%、中間選挙のことで占められているのだろう。トランプ氏は、オレが勝ったのだ、と力説した。ブッシュもオバマもできなかった。オレは、北朝鮮に武力行使も辞さないと強調し、徹底的に圧力をかけた。そのために金正恩は屈服したのだ。トランプ氏は内外にそう力説している。中間選挙を有利に導くためだろう。

 ところで、金正恩氏はなぜか沈黙し続けている。北朝鮮の事情に詳しい人物が興味深いことを言った。トランプ氏が米朝首脳会談をやると表明して、最も仰天したのは金正恩氏自身ではないか、トランプ氏は当然、否定すると思っていたのではないか、というのだ。

 それにしても、米朝首脳会談は本当に行われるのか。行われるとすれば、場所はどこなのか。首脳会談の表明の後に、なぜティラーソン氏やマクマスター氏を更迭しなければならなかったのか。謎が多すぎる。

週刊朝日 2018年4月6日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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