他にも、性犯罪をテーマにした「魔女の法廷」、保険金詐欺問題を扱った「マッド・ドッグ」、カルト教団から初恋の人を救い出す青年の奮闘を描いた「君を守りたい~SAVE ME~」など、実際の事件を連想させる作品もある。

「韓国では昔から社会的弱者が抱えている不条理や社会悪を、ドラマを通じて問題提起することが多い。就職難、貧富の格差、学歴社会など、世の中に対して不満・不安を抱えている人が多いからではないか」(前出の安部さん)

 政府や上流層の横暴が目立つ昨今、ドラマの題材はいくらでもある。

「刑事サスペンス『シグナル』は、セウォル号沈没事故で韓国国民が政府に不信感を募らせていた頃に放送。国民の気持ちを代弁するようなセリフが劇中に盛り込まれ、社会の不条理に挑む脚本で人気となりました」(前出の岡崎さん)

「『リメンバー~記憶の彼方へ~』は理不尽な財閥グループ御曹司が登場し、放送前年の“ナッツリターン事件”の大韓航空の女性副社長を連想。劇中、御曹司が“成敗”される姿を見て、スカッとした気持ちになりました」(30代韓国女性)

 韓国ではこのような「見た後にスカッとするドラマ」を、炭酸飲料にたとえ、「サイダードラマ」と呼ぶ。このスカッが、社会派ドラマの醍醐味だという。

 サイダードラマの代表作といえば、昨年韓国で大ヒットした「キム課長とソ理事~Bravo! Your Life~」(原題「キム課長」)。ピンハネが得意な男がなぜか正義のヒーローとなり、会社の不正に立ち向かう姿を描くオフィスコメディーだ。

「キム課長が腐った上層部をあの手この手でつぶしていく姿が気持ちよかった。リストラや過酷な労働環境など、会社員の現実とリンクした内容にも共感を持てました」(30代韓国男性)

 共感を得るためにリアリティーも追求する。

「韓国の脚本業界は子弟制度が残っている。弟子が、実際の事件の現場に足を運び、生の声を集めるなどしてアイデア会議をする。そのため、より現実に近いストーリーを作ることができるのです」(安部さん)

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