例えば新しい発見があるとする。ネットで引けば、画像や映像は出てくるし、その発見がどういうものかといった説明は出てくる。でもその発見をした人の感動や、どんな苦労をして発見したのか、その結果、世界がどう変わるのかは、その人が実際に語った言葉を聞かないとわからない。

 ゴリラ研究をしてきましたが、ゴリラがどんなに面白いか、いくら文字で書いても伝わらない。生の知識を直接伝えない限り、できない。教員や先輩から直接聞いて、体験を共有できるのが大学です。

 京大に入る人には、そうした生の知識を共有してほしい。その知識は、人の中に入ると組み直されて、その人の身になって、心になってにじみ出てきます。

 また、自分の専門とは違った分野の人と交流してもらいたい。

 理系なら芸術系の人と交流してほしい。なぜなら、サイエンスは人がその結果を見て判断する。誰が見ても結果は同じで不変の法則を持ちます。けれどアートは見る人によって、受け止め方がまるで違う。自由です。このまったく違う性質のものを組み合わせていかないと、これからの時代は受け入れられない。新しい価値観を生み出さないと、何をつくってもはやらないし、売れないんです。

 そうした考えから、「京大おもろトーク」を総長になったころから行っています。世界をびっくりさせるようなアーティストと、京大の誇るサイエンティストを組み合わせて、トークしてもらう。僕は理系の人間ですが、狂言師の茂山千三郎さんと話をしたり、アーティストの土佐尚子さんや森村泰昌さんを呼んだり、いろいろ仕掛けをしました。ほかにも「京大変人講座」など、チャレンジ精神のある試みをやっています。

 僕は、「おもろい」という関西ならではの言葉にこだわりを持っています。面白いと違っておもろいは、相手に言ってもらわないと意味がない。自分で自分をどんなにおもろいと言ってもだめ。他人に「あんたおもろいな。ほなやってみなはれ」と言われて、人に支持してもらう。お金を出してもらってはじめて、一人前。それが関西の文化的精神です。ぜひ直接、肌で感じてもらいたい。

 京都は小さなコミュニティーにもかかわらず、30を超す大学があります。そして市民は大学生を可愛がり、大事にしてくれる。これは京都ならではのこと。いろいろな文化行事、例えば祇園祭や葵祭、時代祭などがあり、大学生が参加しています。大学生がいないと、こうした大事な行事は成立しない。日本の中でも特殊な古い都で文化の息吹を感じながら、学んでください。(構成/本誌・工藤早春)

週刊朝日 2018年3月23日号