「緊張して交感神経が優位になると、鼻水が出ない」。以前取材した耳鼻咽喉科の医師の言葉を思い出す。

 ハーフ折り返しは、あの富岡八幡宮。そろそろ練習ランで痛めた右ひざに痛みが出始める。ここからが勝負と言い聞かせていたら、沿道に「おいしいビールが待っているよ!」とのメッセージボードが。完走のため1週間ほど好物のビール断ちをしていた。この言葉に気持ちを立て直す。だが、時すでに遅し。疲労度はグンと上がって70%。

 30キロ過ぎ。銀座に入るあたりで走れなくなる。だが、ここから先、ずっと歩いても制限時間に間に合う。あのドナドナ……いや「はとバス」に乗らなくてすむ。ドナドナとは、過去にこのマラソンで完走できずに、はとバスに乗った知人の経験談だ。バスに乗る気分が、ドナドナだったらしい。

 ラスト12キロは恐ろしいほど長く、疲労度は120%超。それでも目の前にフィニッシュのポールが見えてくると、もう走らなくていいという安堵と達成感からか、うるっときた。そしてゴール。5時間40分弱だった。エネルギー消費量は2120キロカロリーで牛サーロイン700グラム。人生初マラソンはつらかったけど、達成感が半端じゃない。はまりそうな予感がした。(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2018年3月16日号