財界と政府が一体化して進む原発輸出。「成長戦略」のお墨付きを与えて旗を振るのは、安倍首相だ。

「総理経験者の会合で、『経産省にだまされているんだぞ』と言ってやったが、苦笑して聞いているだけだった。首相は推進派に洗脳されているのだろう」

 小泉純一郎元首相はそう話す。1月、「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」の記者会見に参加し、脱原発への思いを熱く語った。政府のエネルギー政策の大転換を求める法案で、城南信用金庫が設立した城南総合研究所が中心になってまとめた。小泉氏は名誉所長を務めている。

 元首相と城南信金をつないだのは、13年に他界した加藤寛・慶大名誉教授の縁だった。政府税制調査会会長を務め、自民党政権ブレーンだった「カトカン先生」。原発事故を機に「原発即時ゼロ」を主張するようになり、著書『日本再生最終勧告』(ビジネス社)でこう記していた。

〈本書は私の遺言である。少なくとも『原発即時ゼロ』の端緒を見届けないかぎり、私は死んでも死にきれない〉

 加藤氏の「脱原発は新産業の幕開けをもたらし、雇用の拡大をもたらす」という説に共感したのが、元城南信金理事長で加藤ゼミ門下生の吉原毅氏。小泉元首相も慶大の教え子で、「加藤先生の授業は面白いので欠かさず出た」という。吉原氏の招きに応じ、恩師の志を継いで城南総研名誉所長に就任。吉原氏らは脱原発の論陣を保守の側から張る。

 吉原氏らの法案に、産経新聞は「これでは国が立ちゆかぬ」と題する主張(社説)を掲げ、「『亡国基本法案』と呼ぶしかない」と切り捨てた。「認識不足も甚だしい」と吉原氏側は反発。世界の自然エネルギーへの趨勢(すうせい)を見ず、誤った認識で原発推進を主張するのでは読者をミスリードする、と反論掲載を求めた。吉原氏側によると、産経は「社内で検討する」と応じたが、期日までに返事はなく、問い合わせると「掲載できない」と回答されたという。  

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