アルバムを締めくくるのはインスト曲で、幕開けに“Overture”としてショート・ヴァージョンが登場する「Salsa de Surf」のロング・ヴァージョン。アコーディオン奏者のcobaがプロデュースした『Surfin'Music』(94年)への提供曲のセルフ・カヴァーだ。高野もリード・ギターを披露し、バックの4人とセッションを繰り広げる。

 選曲を含めプロデュースをDarjeelingに任せた結果、高野のシンガー・ソングライターとしての魅力が最大限に発揮された。その魅力を引き出したDarjeelingの手腕、高野をサポートした4人のアンサンブルの見事さも注目される。

 高野は歌に専念した結果、歌詞の解釈、歌の表現などヴォーカリストとしての新境地を開き、甘い歌声に“大人の味わい”が加味された。穏やかでやさしく、ぬくもりにあふれる高野の歌に心の安らぎを覚える。

『A―UN』というアルバムの表題は、“音の会話”が飛び交い、ヴォーカルを含むバンド演奏を3日間で録り終えた“阿吽の呼吸”に由来するという。(音楽評論家・小倉エージ)

●『A―UN(あ・うん)』(GEAEG/クラウン CRCP-40543)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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