プロデューサーとしても知られるミュージシャン高野寛
プロデューサーとしても知られるミュージシャン高野寛
高野寛『A―UN(あ・うん)』
高野寛『A―UN(あ・うん)』

 今年、デビュー30周年を迎えたシンガー・ソングライターの高野寛がニュー・アルバム『A―UN(あ・うん)』を発表した。

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 高野は1986年に高橋幸宏、鈴木慶一が主催した「究極のバンド」オーディションに合格。バンド結成には至らなかったが、88年にソロ・デビューした。「虹の都へ」(90年)がオリコン2位にランクされ、続く「ベステンダンク」もヒットし、その存在を知られてきた。

 シンガー・ソングライターの活動の傍ら、坂本龍一や宮沢和史のワールド・ツアーにギタリストとして出演。高橋幸宏を中心としたバンド、pupaにも参加。楽曲提供、プロデューサーとしても活躍してきた。つい最近にも“のん”のデビュー・シングル「スーパーヒーローになりたい」のタイトル曲の作詞、作曲を手がけて話題を呼んだばかりだ。

 今回の『A―UN』は、ベテランのミュージシャンでプロデューサーとしても活躍中のDr.kyOnと佐橋佳幸によるユニット、Darjeelingが昨年設立したGEAEG(ソミラミソ)レコーズから発表された。プロデュースを手がけたのはDarjeelingのふたりで、Dr.kyOnがキーボード、佐橋がギター、元ロッテンハッツの高桑圭がベース、シンプリー・レッドでも活躍した屋敷豪太がドラムスを務める。

 収録曲は、高野が他のアーティストと共作、または単独で作詞・作曲した曲のセルフ・カヴァーが5曲。新曲が2曲。カヴァーが1曲。

「Affair」はビールのCMに起用された、高野寛とオリジナル・ラブの田島貴男の共演盤「Winter's Tales~冬物語~」(92年)のカップリング曲だった。本作ではAORテイストの軽快なポップ・ロック・スタイルで、田島が書いたという濃密な情交の様を描いたサビのパートに、高野が甘い歌声で取り組んで“大人の味”を見せる。

 矢野顕子と共作した「ME AND MY SEA OTTER」は、矢野のアルバム『ELEPHANT HOTEL』(94年)の収録曲。“最後のヴァース以外は矢野の作詞、サビ以外は高野の作曲という変則的な共作詞曲”という。当時、ファクスとカセットでやり取りしたというエピソードが時代を物語る。独特の音楽展開を見せる矢野ヴァージョンに対し、高野はギター主体のアレンジに変え、仕上げをDarjeelingに任せた。“ラッコ”への親しみを込めた歌詞そのまま、高野の歌いぶりは童話を読み聞かせるようなやさしさとぬくもりを感じさせる。矢野の娘、坂本美雨がゲスト参加し、親子のDNAを物語るコーラスを披露している。

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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