同院では2002年にこの手術を始め、これまで約200人に実施し、約50人が出産に至っているという。

 子宮を残す手術で、最も問題となるのが再発のリスクだ。同院では術後に再発したのは1割程度。標準治療をした場合とほぼ変わりなかった。

「大規模な比較試験をしているわけではないので、再発のリスクは問題ないとは言い切れません。患者さんには標準治療ではないこと、手術中の病理検査で子宮の切り口にがんが残っていたり、子宮外に転移があったりした場合は、子宮を全摘する可能性があることを理解してもらったうえで、選択するようにお伝えしています」(青木医師)

 同院では手術中に全摘手術に切り替えたケースは、1割程度あるという。

 東京都在住の新井玲子さん(仮名・37歳)は34歳のときに子宮頸がん検診を受け、がんが見つかって、同院を受診した。検査目的で円錐切除術を受けたところ、がんは直径1センチだった。子宮を全摘する手術が必要だったが、新井さんは結婚したばかりで、妊娠を強く望んでいた。そこで医師からリスクやさまざまな条件に関する説明を受けたうえで、開腹による広汎性子宮頸部摘出術で子宮を残すことにした。術後1年以上過ぎたが妊娠しなかったため、体外受精を実施。その後妊娠し、一時は早産ぎみになり出産まで安静が必要になったが、帝王切開で出産。現在まで再発はない。

 新井さんのように手術後に妊娠するためには、体外受精などの生殖補助医療が必要になるケースが多い。また、頸部が短くなるため、妊娠したとしても早産のリスクが高くなる。早産を予防するために頸部を丈夫な糸で縫い縮める、頸管が狭くならないように形成術を加えるといった工夫がされている。出産の際は帝王切開が原則だ。

 このように広汎性子宮頸部摘出術は、標準的な手術に比べて、必要な処置が増えるが、技術的に通常の広汎子宮全摘出術と大きく変わることはない。しかし実施している施設は限られる。

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