したがって、シニア世代が投資をする場合には、投資額の「上限」がいくらなのかを知ることが重要だ。安全運転をしていても事故が起こるように、投資にも事故が起こる。それが“経済ショック”だ。直近だと、2010年にギリシャ・ショックが起き、その5年後の15年にチャイナ・ショックが起きるなど、3~5年のスパンで世界経済を揺るがすような大きな経済ショックが起きている。経済ショックが起きれば、株価は大暴落する。投資に予期せぬリスクはつきものだ。

 投資を始める前に必要なのが、「守るお金」を確保しておくこと。まずは、日常生活資金=月の生活費の6カ月分を確保しよう。介護病気、住宅リフォームなど、予定外の出費がかさんでも、当面はなんとかなる。

 次に5年以内に取り崩す予定のお金を確保する。繰り返すが、経済ショックは3~5年のスパンで起きる。5年以内しか運用できないと、その間に経済ショックが起きて値下がりした場合、値を戻すまで持ち続けられず、損失が確定する。

「日常生活資金」と「5年以内に取り崩す予定の貯蓄」の合計額が「守るお金」だ。運用が順調で追加投資したいときでも、このお金に手をつけるのはNGだ。

 次に「増やすお金」を決める。まず、現在の金融資産額から「守るお金」を差し引く。ただし、これは“家計からみた”場合の金額だ。

 ここでポイントとなるのが、家計とは別に、自分の“気持ちからみた”、つまり、心理的に許容できる損失額。このお金は、どの程度なら損をしても、「まあ、仕方ない」とあきらめられるかを基準に算出する。「貯金の20%」とパーセンテージではなく、「100万円」などと具体的な金額を出そう。そのほうが金額の大きさでショックを受けるからだ。その金額を2倍にする。これが、“気持ちからみた”投資にまわせるお金だ。(最大損失を投資額の50%と想定して計算)。

 そして、“家計からみた”場合と、“気持ちからみた”場合で、金額の小さいほうが、実際に投資にまわしていいお金=「増やすお金」だ。大半の人は、“気持ちからみた”ほうが、金額が小さいだろう。この金額内なら、たとえ損をしても、心理的にも家計的にも窮地に陥らない。

 老後生活においては、自分にとって投資にまわせるお金がいくらなのかを理解し、家計における「守り(=守るお金)」と「攻め(=増やすお金)」のバランスを調整することが大事だ。(ライター・村越克子)

週刊朝日 2018年3月9日号